第114話 月華氷刃(げっかひょうじん)5
家に着くと爺ちゃんは玄関前で正座をしていた。
「た、ただいま爺ちゃん……。もしかして、今日なにが起きたか聞きたいって感じ? でもごめん、ちょっと疲れてて……。軽く映画に行ってきただけで――」
「焔よ……。そこに座れ」
「え……そ、そこまでする? 何が聞きたいのさー……」
座って問いただされても18禁の映画を観たなんて言えないから……。
「清美……学校から連絡が入った。一週間の停学処分とな……」
「え……? えええっ⁉ どゆこと⁉」
ドドド、どういうこと⁉
「ね、ねえ爺ちゃん……な、なにがどうなって――」
「お主……魔武ハチ生徒を18人、全員病院送りにしたそうじゃな」
「ちょ、ちょっと待って⁉ 俺がそんなことするわけ――」
「表に出い! そんな事をさせるために剣術を教えていたのではないわ! そのいつから生まれたかわからん腐った性根だけ叩き折ってやる!」
「だ、だから待ってって……!」
魔武ハチ生徒ってことは……あのサッカーの時か……。
確かにあの時……俺は血まみれだった。
あの血はアイツらのだったのか。
はっきりとした記憶はないがそういうことなんだろう。
俺はきっと正当防衛のつもりで殴り返しただけなんだ。
それなのにほら、こうやって仕返しをした側が責められることになる。
いじめていた事実、暴力を振るっていたヤツらは明るみになっていないから問われない。
だからいじめられる側がいつもいつも損ばかりするんだ!
悪いのはいじめられた側になるんだ!!
「爺ちゃん。今回ばかりはハッキリ言うよ」
「むっ……」
「俺は悪くない。それを証明するから」
そう言って外に出た。
*
こうなった以上、俺も爺ちゃんも何を言っても聞かない。
なら納得するまで
手にしている木刀は既に火炎を帯びている……。
これはきっと、決意の表れなのだろう。
爺ちゃんからは「反抗期」と言われながらも、実際は本当にちょっとした抵抗みたいなものだと自分では思っている。
それは、俺が何から何まで爺ちゃんの世話になっていて、部屋も学費も食費など全て負担してもらっているからだ。
だが、譲れないことは絶対に曲げたくない。
これは自分に芽生えた自我であり、ただの反抗ではないからだ。
明確な意思、主張があるから……伝えたいことがあるから、俺は
「爺ちゃんなら絶対わかってくれるって思ってる。あとはどう捉えるかだよ」
「剣を交わせば分かり合えることもある。今のワシらにはそれしかない事、まさか知らぬとでも?」
「知らなかったら立ち合いなんて申し込んでないから。早く構えてよ」
「ワシが構えてなければお主に劣るとでも……?」
「…………しゅ……」
《瞬炎》!!
爺ちゃんの背後を取り、すかさず炎で加速した胴を繰り出す。
ブンッ
「っ……⁉」
煙の様に消えた爺ちゃんは、俺の視界から完全に消えた。
音も何も聞こえてこない。
しかし消えたという事は現れるという事……!
《火走》!
周りの土を巻き上げ、俺もまた紛れる作戦にでた。
「安易じゃの」
耳元でそう聞こえたと同時。
バチシッ
左右同時の面を両肩に食らう。
紛れる瞬間を捉えられたのだろう。
「いっ……」
「消えきる前なら捉えることも容易」
爺ちゃんは見える位置に現れたが、おそらくあれも実体ではない。
縮地法の応用で実際にいる場所をゆがませている。
「なんの……《火走》!」
再び土を巻き上げる。
「馬鹿の一つ覚えか。それはあまりにも浅はかというもの――」
ブンッ
「なに……⁉」
突然現れた爺ちゃんの胴が今度は空を切る。
「ワシの真似事を……」
「まあね。でもこの理論は俺が考えたんだ。今なら爺ちゃんに自信を持って見せられる」
熱量を周囲から集めていく。
大気、大樹、土塊、水たまり、それらから少しばかり拝借し一点に集中させる。
「言っておった新技というやつか。しかしやすやすと打たせるつもりはないがの! 《
ビュッ……ブンッ
「……完全に捉えたと思うたが」
再び爺ちゃんの2段は空を切る。
「まあ試しに受けてみてよ。ようやく完成したんだし」
ゴゴゴゴ……
「
ギュ……ギュギュギュギュ…………
「なんじゃ……これは……!」
「じゃあ受けてみて、これが俺のオリジナル……! 《
火の能力者である俺が異世界転生したら火属性の敵しかいませんでした。辛…… 知己衛吉 @tikieikichi
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