第113話 月華氷刃(げっかひょうじん)4
「Ah……ah……Oh……yes……comecome...club」
…………⁉
この国の映画かと思ったら……海外のリメイク版じゃないか。
……いや、突っ込むとこそこじゃない!
突如として始まったお色気&おセクシーなシーンに何度見してしまっただろうか。
そして今更、画面に「R18」って文字が見えたんだけど⁉
え……如月さんが観たいって言った映画は18禁……⁉
いや、それよりも何で店員さんは
……あ!
研修中だったよ。
如月さんはそれどころではない様子。
瞬きもせずストローを咥えてるのにブクブクと泡を立てていて全く飲めていない。
これはきっと、「こっそり18禁の映画を見たかったけど女の子1人だと変に思われちゃうから男と一緒なら『まさか学生が18禁を男女で観に来る』とは疑われない」と思って最初は喜んでたってことかな。
でもいざ映画を観るとなって「バレたらどうしよう……!」って緊張してたんだな。
なるほど……。
大丈夫だよ如月さん。
俺は堂々としてみせるから!
学生だと疑われないようにするね!
そう思い、どっしりと構え余裕を見せる。
如月さんが気になり、横目で見る。
……顔真っ赤!!w
完熟トマトかな……。
彼女には刺激が強すぎたようだ。
まあ当たり前か……18禁だし……。
映画は進む。
内容はと言うと、結婚をしていた中年男性が20代の別の女性に恋をして両想いになり不倫をしてしまう話。
家族と不倫相手を天秤にかけて1年悩んだ挙句、奥さんからは離婚を切り出される。
不倫がバレたからではなく、お互い愛情を感じられなくなったからだと。
これで不倫相手と気兼ねなく暮らせると思ったら、もうその時には不倫相手も愛情を無くしていて、結果振られるという
言うなれば『二兎追うものは一兎も得ず』の典型的なパターン。
最終的にその中年男性はそれ以降、孤独になって仕事もうまくいかず、天からも見放されて最期を迎えるというバッドエンド。
簡単に言ってしまうと自業自得である。
途中に挟んできた、おスケベシーンは……この作品が18禁であることを再認識させる程度のもので、それほど描写がドギツいモノではなかった。
のっけからのお性交には度肝を抜かれたけれども……。
ただ、国外のものは刺激が強いのは確かで、日常のやりとりよりも行為シーンの方が遥かに長かった。
映画を評論するならば……。
そうした愉しいことたっぷりと味わっていたのなら最終的に孤独になって生涯を終えたとしても悔いはないのではないのだろうか。
この世界は不条理である。
悪い事の後に必ず良い事が起きるとは限らない。
その中で、良い事と思えることが一つでもあったのなら、良しとすべきではないのだろうか。
自分の生きてきた意味が、その瞬間には確かにあったんだから。
如月さんは、終わる頃にはもうヘトヘトになった様子だった。
ビーーーッ みなさま、お忘れ物をなさいませぬようお帰り下さい……
「いやー、如月さん。こういうのが観たかったんだね。でもある意味楽しかった。考えさせられた」
「えっ……こ、こんなのだとは……(なにこれ……。恋愛映画じゃなかったの? 聞いてなかったんだけど⁉ 手繋いでチューして結婚……なんてもんじゃなかった……。ホッくんは楽しかったって言ってるけど……超余裕じゃん! 超大人じゃん! 見慣れてんのかな……)」
「どっかカフェでも行って話する?」
確か映画を観た後って、カフェとかで話をするのが良いんだっけ……?
映画についてのダメ出しとか良かったところとか、語るのが基本なんだよな。
「うん……(まだ一緒にいられる……ね)」
*
俺らは映画館近くの『フォワードプラネット』へやってきた。
ここは若者に人気のカフェで、流行りのドリンクやスイーツなどが盛りだくさんである。
本当は凍上さんと万が一、デート出来た時に来ようと思ってリサーチしていたところなのだが。
「はい、ここのオススメ。ごめん、勝手に頼んじゃった。悩まなくていいと思って。苦手なモノとかアレルギーはないって言ってたもんね」
そういって注文しておいた、ここのオススメ#1の『ロイヤルスポポピーチティ』を渡す。
「あ、ありがと……(ちょっとちょっと……なんでこんなにスムーズなの⁉ ホッくん、女慣れしすぎじゃない⁉)」
如月さんは無言でそれを飲んでいる。
「ああいう映画ってさ、作り手が『何を言いたかったのか』ってところだと思うんだよね。俺が思うに、人生の絶頂期に『どれだけ自分がやるべきことを行えたか』だと――」
……ジト目でみられてるけど……あれ、なんか怒ってる?
「あれ……ど、どうかした? なんかあった?」
「今日、結局一回もお金払ってないんだけど」
「あー、それでちょっと怒ってるのね」
「……そんなんで怒らないよ!」
いや、絶対怒ってるし……。
「あのさ、ホッくん」
「え、あ、はい」
「今まで何人の女性と付き合ってきたの? (高校1年で……既に何十人とかだったり……)」
「へ、は……はいい⁉」
「正直に答えて。ちょっと手際が良すぎる。あまりにもプレイボーイ(このスケコマシ!)」
「ちょ、ちょっと待ってってw 付き合うどころかデートも初めてなんだけど??」
「……いや……それはいくらなんでも嘘すぎる(初めてでこんなエスコートが上手な人っているわけない)」
「いや、ホントに……。……たまたま映画のチケット貰っただけだし……このお店もたまたま……チラシで見ただけだし……お金だって爺ちゃんからいっぱい貰ったからだし……」
如月さんはこちらを見て疑っている。
あー……こんな時、凍上さんみたいに心を読める能力があってくれたらって思う……。
嘘なんて言ってないとわかってもらいたい……。
「フゥー……。やっぱホッくんって凄いよねー。何でも出来るし(嘘じゃないかぁ。じゃあホントただスゴいだけなんじゃん! ……てか初デートだったの……♡)」
「え、急になに……。何でもは出来ないよ? むしろダメダメなんだけど」
「なーに謙遜しちゃってー! 優しくて、怒ったりしない、人に配慮出来て、料理得意、頑張り屋、正義感ある、人を悪く言わない、字がうまい、熱い漢、かっこいい、それでいて……ずっと……一途……」
「ど、どしたの急に……?? 如月さんって褒め上手だよね。前も褒めてくれたもん。でもかっこよくないしそれに――」
褒められ慣れてない俺にはムズ痒いし、どうせ誇張表現なんじゃないかって疑っちゃうんだけどね。
「知ってるの……わかってる。あたしが付け入る隙なんて……(無いって)」
涙目な如月さん。
何で、どうして?
「超絶鈍感!!」
本気でよくわからない。
なんで褒めてくれていたと思ったら怒られたんだ?
なによりも女性を泣かせてしまったことが一番の罪だろう。
「ごめん、如月さん。ホントにごめん」
「……違う。あたしが悪いの……(想いを伝えられる魔法があったらいいのに……考えてることを相手に伝えられたら……どんなに幸せだろう)」
……わかんない……。
どうしよう……。
「グスッ……あーー、帰ろっかー。もう日が暮れちゃうもんねー」
「そ、そうだね……」
これで良かったのだろうか?
お店を出る頃には日が落ちかけていた。
「今日はありがとね! デート、超楽しかったよ! また誘ってねっ」
「う、うん……」
今日のはデートだったっていう認識なのね……。
そして俺から誘ったことになってるね……。
「いや。あたし、諦めないから。一途なのはあたしも一緒だから!」
ダダッ…………
そう言い残し、彼女は『風の様に走って消えて』しまった。
如月さん……。
*
俺は、今日のことを考えながら、ランニングすることなく、歩いて家まで帰った。
具体的に何を考えてたのか、どういう結論に至ったなんていうのは、全くわからない。
ただただ、今日のことを考えていたということだけだった。
*
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