外れない予言

藍染 迅@「🍚🥢飯屋」コミカライズ進行中

外れない予言

「あなたは十五歳の誕生日にこの世を去るでしょう」


 ◇


 十歳になった年、俺は「導きの儀式」を同い年のみんなと共に受けた。

 俺たちを迎え入れたのは「星読みの聖女」と呼ばれる尊いお方だ。

 聖女様は子供たちに一つずつ予言を与えてくださる。


「聖女様の予言は、それはそれはありがたいものなのよ」

「そうだぞ、ポール。聖女様の予言は絶対に外れないんだ」


 母と父は、口をそろえて聖女を讃えた。


 俺が受けた予言は「十五歳の誕生日にこの世を去る」というこの上なく不吉なものだった。

 父と母は予言を聞き、嘆き悲しんだ。


「予言を変える方法はないの? ねえ、あなた!」


 母が泣いてすがると、父は力なく首を振った。


「予言は為された。内容が変わることはない」

「ああ、何てむごい!」


 毎日両親は泣いて過ごした。だが、俺はあきらめなかった。

 部屋に籠り、必至に知恵を絞った俺は、四つの方法を考えついた。


 一つ目は体を鍛え、無敵の武術を身につけること。


 二つ目は「不老の秘法」を会得すること。


 三つ目は魔法の秘奥を極めること。


 四つ目に「異世界転移の秘術」を学ぶこと。


 悩んだ末に、俺はすべての方法をやり抜くことを決意した。

 俺はその日から浸食を惜しんで修行に全精力を傾けた。


 始めに武術を学んだ。強い体はすべての修業に役立つはずだ。

 必死に修行する姿を見て、武術の師は惜しみなく技を授けてくれた。

 俺は一年で師の域を超え、奥伝を許された。


 次に俺は不老の術を学んだ。深山に住む仙人を訪ね、教えを乞うた。

 ここでも師は俺の熱意に打たれ、仙術の秘奥を授けてくれた。

 一年で俺の体は霞の如く軽くなり、疲れを知らず、睡眠も休息も必要としなくなった。

 俺の体は隅々まで活力がみなぎり、老化するということがなくなった。


 三番目に俺は魔法を学んだ。国随一の魔法使いの前に頭を下げ、弟子入りを望んだ。

 彼もまた俺の熱意に打たれ、火水風土雷光の六属性魔法を惜しみなく授けてくれた。


 最後に俺は異世界転移術を会得した。孤島のダンジョンに隠れ住むレイスを探し当て、光魔法で脅しつけて、渋る彼に転移術を伝授させたのだ。


 四年の歳月を費やし、俺はすべての修業を終えた。残る一年、俺は猛獣や魔物と戦い、盗賊を倒して国中を回った。

 何者も俺の体を傷つけることはできなかった。


 そしてついに、十五歳の誕生日がやってきた。


 部屋に籠って瞑想する俺の前に、骸骨の姿をした死に神が現れた。

 部屋に置かれたテーブルを通り抜けて、俺の前に進んでくる。


(こいつには武術は通用しない。拳も蹴りも体を通り抜けてしまうだろう)


 俺は光魔法の奥義である「滅魔の聖光」を繰り出して、死に神に浴びせた。しかし、魔法は拒絶され、効果が現れなかった。


「無駄である。あらゆる魔法は通用しない」

「本当か? 試させてもらおう」


 俺が放つ六属性すべての大魔法は死に神の体を通り抜けてしまった。


「ならば、異世界転移だ!」


 俺は別の世界に渡った。これで「この世を去る」という予言は成就したはずだ。


「無駄だ。我も転移できるのだ」


 なんと死に神が俺を追って転移してきた。

 逃げ道はどこにもなかった。


「ふふふ。では、改めて命をもらう!」

「異世界転移!」


 俺は転移術を死に神に向けて放った。ただし、奴の上半身だけに狙いを定めて。


 俺の目の前には死に神の下半身だけが残っていた。やがて、それも朝靄のように薄れていき、すべてが消え去った。


 俺は転移術を行使して、元の世界に戻った。無事に戻った俺を見て両親は涙を流した。


 三人の頬を濡らすのは、五年ぶりに流す喜びの涙だった。(完)

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