久しぶりに名著をひらいて
森下 巻々
『セクシィ・ギャルの大研究』(カッパ・サイエンス)を読んで
いつだったかに入手して(2000年代になってから?)、1982年10月に発行された上野千鶴子さんの『セクシィ・ギャルの大研究』を読んでから、僕はこの本を名著だと感じてきました。
強く記憶に残っているイラストがあったのですが、それはハイヒールを履いた女性の脚が並んでいて、その下側で男性が魅惑されているというものと、女性がいわゆる体育座りのように膝を抱えている、その膝辺りが描かれたものでした。
いま確認すると、前者は《性的に女に
僕は、その通りだなあと感心し、この本を名著だと思ってきました。
今日、不図想起して、確認してみました。そして、今まではしていなかったのですが、本の終わりの方にある「イラストレーション資料出典一覧」を参照してみました。
すると、この本に引用されている(転載ではなくイラストとして描き直されている)画像は、女性向け雑誌に掲載されていたものが少なくないことが分かりました。
ハイヒールを履いた脚が並んでいる画像は、「ラモーナ/クロワッサン」とあります。「クロワッサン」は女性向けの生活・文化雑誌ですよね。「ラモーナ」というのが、よく分からないのですが、おそらく「ラモナー」というストッキング製造会社ではないかと思います。これは、ストッキングの広告だったのですね、たぶん(※違っていそうならば、コメントをください!)。
僕の記憶では、広告にいわゆる男性目線が溢れていることを指摘していたのが、この本だと思っていたので、あれ?と思いました。女性向け雑誌の広告は、女性に向けて書かれているはずだからです。
それで、この本を読み直してみました。
動物の世界では《性的ディスプレイの華々しいのはオスのほう》なのに、人間の世界では逆転している、といいます。そして、《この逆転現象をもののみごとに反映しているのが広告である。では、広告に氾濫している性的メッセージは、誰が誰を引きつけるためなのか? もちろん、女が男を性的に引きつけるためである》(P85)。とされます。
その理由は《まず第一に、広告の作り手たちが、広告の受け手を男だと見なしていることがあげられる。男から男への、女を媒介にした欲望のメッセージ――これが広告の実態なのである》(P86)だそうです。第二として最大の理由が挙げられるのですが、それが、《女性が女性を見るときには、男の色めがねをかけて見る》(P86)というものです。《女は男の目を内面化して女を見ている》(P87)というのです。《女は、自分自身をも、つねに男の視線を介してながめ、評価するくせがついている。女は、男の見かたに「汚染」されているのである》(P89)とも書かれています。
なるほど、男性の目を内面化した女性をターゲットにして広告が作られていたとするならば、僕が憧れるような男性のパラダイスが女性向け雑誌に掲載されていたのも不思議ではないのかも知れません。
しかし、何か違和感を覚えます。以前は、この本の、こういうポーズやああいうポーズがセクシーに見えるという感じ、解読する感じに愉しさを感じていましたが、どうも違和感を覚え始めました。
或る段落も違和感をもって目に入りました。その段落は、或る女性作家のことを挙げた後にありました。
けれど、この作家ばかりではない。鏡をのぞかずにはいられない女性は、誰でも、見られる(ことに男に)ことによってしか存在を保証されない、あわれな存在だと言える。ナルシシズムは、「他人の目」によってしか成り立たない、というパラドックス。鏡は、「他人の目」もっとはっきり言えば、「男の目」を内面化した存在だ。女は、鏡の中の自分がみごとにブラッシュアップされた姿を見て、にっこりほほえむ。それは、男の目から見て自分がどう見えるか、を確認する作業なのだ。(P176-177)
これです。結局、この本の核にあるのは、これだと思いました。なぜ見られることを意識している人が「あわれな存在」なのでしょうか。別にあわれじゃないし、そもそも現実の人たちは、たぶん見られることを意識もしているが、それだけを生きがいにしているとは限らないと言えるだろうとも思いました。
それから、「クロワッサン」という雑誌から引用されている画像があることを先に書きましたが、そのほかにも、この本で使われているのには、男性誌(「PLAYBOY」等)と同じくらい、「non-no」「ミセス」「MORE」からがあるのです。
ファッションを多く扱う雑誌に掲載されている広告が、見られることを意識したものであるのは当然ではないかとも思いました。
久しぶりに名著をひらいてみた訳ですが、どうも僕の見方が変わってしまったようです。
久しぶりに名著をひらいて 森下 巻々 @kankan740
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