勇者に憧れた勇者

動く点P

第1話

日本でもこの地球とも違うある世界のある国 文明も地球ほど発達しておらず生活の半分を魔法で補っているようなそんな世界でそんな国

人と魔族と魔物が混在するそんな世界にある一つの国の近くで二つの電気を帯びたような巨大な柱が何秒間に渡って出現した


◇ ◇ ◇



大学での授業が終わったその帰り道俺はいつもの本屋へと立ち寄った あまりにもこの本屋を利用しすぎたせいで店主とそこそこ仲良くなってしまったため軽く会釈をしてから自動ドアくぐる 


「なんだいまた来たのかい?」


「別に毎回買ってるんですからいいじゃないですか」


「ははっ それもそうだな まぁゆっくり見てけよ 常連さん」


「常連さんなら少しくらい割引してくれてもいいんですよ?」


「それは出来ないお願いだな!」


まったく… ノリ良い店長だ 

俺は新刊コーナーへと足を運んだ 棚に陳列されているラノベを手に取り適当にペラペラとページをめくる

このラノベ面白そうだ あとこっちも まったくお金がいくらあっても足りないな

2年生にもなると大学生活にもなれ時間が上手く使えるようになる その空いた時間にバイトをやってラノベを買う軍資金にしてるわけだが…特に頻繁に遊んだりするわけでも無いからバイト代がほとんどラノベに消えてしまう 別に断じて友達が居ないわけではない! maybe…

そのせいで俺の家は時間が経つごとに冊数がどんどん増えていってしまうのだが…おかげさまでどちらかと言えば俺ではなくラノベが家に住んでるみたいになってしまっている ただでさえ一人暮らしでそんな広くないってのに…

そいでもって手に取ったラノベの種類は全てが異世界転生系 恋愛系なんかも少し読んでみたがすぐに異世界ものに戻ってきてしまった

それからというものラノベ好きになってから俺は「勇者」という存在に憧れるようになった

だってかっこよくない?逆境に立たされてもボコボコにされても仲間のため世界のために戦ってるあの姿。憧れるなって言う方が無理じゃない?ってことで俺はいつか異世界転生して勇者になれる日を夢見てるって訳だが…

でもそんな淡い期待が叶うはずもなく仕方なぁ~くラノベに入り浸ってしまっている。


「おじさん今日はこれお願い」


「はいよ! あれ今日はいつもよりずいぶん冊数少なめなんだな」


「あはは… もうそろそろ家での居場所無くなっちゃいそうだからね…」


「なるほどな! まいど!」


購入を終え帰路につく 帰りの会釈も忘れずにね 手には何冊かのラノベが入ったレジ袋かぶら下がっている  太陽がもう少しで隠れそうな時間帯

仕事終わりのサラリーマン、学校帰りの高校生、犬の散歩をするおじいちゃんを眺めながら帰路につく

鼻歌を歌いながら歩いていると後ろからキャーとかキャーとかの黄色い声援が聞こえてくる

俺がそんなにかっこよかったのか!うんうん、自分でも容姿はまぁ…普通以上だと思ってるし! だからってまぁ…彼女がいるわけでもないんだけど…

なんならそこら辺のおっさんからも


「おい!そこの青年!」


と言われる始末 俺…そんな趣味はないんだけどなぁ…

女の子からの声援だけにニヤニヤしながらそんなことを考えていると背中にとてつもない重量を感じると共に俺の体は空中に舞っていた


「…は?」


空中を舞っているせいか周りの景色が良く見える 俺が元居た場所には大型のトラックが歩道の道を塞いでいる さっき悲鳴をあげていたであろう女子高校生の顔も 声をかけてくれたサラリーマンの顔も何故かこのずいぶんとスローモーションに動く世界のせいでよく見える 

どのくらいの時間が経ったのだろうか 一時間、一日になんて感じられた一瞬の俺の空中旅行は地面との衝突で幕を下ろす


俺は目を閉じた それから救急隊がきた後でも再度俺の人生の旅の幕が上がることはなかった

でも何故か意識がはっきりしている いつまで経っても痛みも感じない。それになんか体が軽い 思考も不思議とクリアだ

さっきのは俺への声援じゃなくて突っ込んでくるトラックへの悲鳴だったのかよ…とほほ…

てことは俺…死んだってこと? 死ぬことになるなら買ったラノベ読み終わってからがよかったズラ…

瞼の外が明るい さっきまでは瞼の内側も外側も真っ暗闇だったのに 不思議に思いそ〜と目を開けてみるとそこには俺が生きていた近代的な風景はなかっな

右を見れば草! 左を見ても草! 正面はどこまでも草原が続いていた

ついさっきまでは固いコンクリートの地面を踏みしめていたのに今ではずいぶんとふかふかしている

これってもしかして異世界転生ってやつ!?まじかよ…ほんとに異世界に来ちまったのか!? ってことはもしかしてこれから俺の最強伝説始まっちゃいます!? 勇者になって!かっちょいい装備を身にまとって!女の子と仲良くなって旅をして〜 それからそれから〜なんてこれから始まるであろう華々しい異世界ライフ 否!川名輝の英雄譚!が始まる!なんて陽気なことを考えていると後ろからザッザッと足音が聞こえてくる しかも複数の足音だ

魔物か!?とも思ったが今の俺の見た目は死ぬ直前と何ら変わっておらず剣の1本も腰に刺さってはいない

武器になるようなものといえば今さっき購入したラノベだ あの角で殴られるとちょっと痛い がそれでも武器がないのとほぼ同義だ

こんな状態で戦いになったら一溜りもないが俺の予想とは裏腹に姿を見せたのは数人の老いぼれたじじいだった じじい達はいかにも高そうな服で身を包んでおりこの世界での地位が高いことが容易に想像できる これはもしや勇者としてやってきた俺を迎えに来てくれたのでは!?なんという王道展開!いや〜ありがたいね!そうと決まれば早速自己紹介!こういうのはやっぱ第一印象が大事だからね!


「初めまして川名輝です この世界を救いにきましっった」


決まった~!渾身の決めポーズを添えて自己紹介をするが反応はどうやらいまいちらしい なんでだよ!それどころかじじい達は不思議そうな顔をうかべヒソヒソを何かを喋っていたが話がまとまったのかこっちに向き直し口を開く

ん?何言ってるか分からないんだけどぉ? 声は聞こえるのに内容が全く分かったもんじゃない

こういうのって普通勇者の特殊スキルみたいなのに言語理解とか入ってるもんじゃないの?それかあれか?自分で勉強して身につけていくタイプなのか?はたまたなんかこう勇者として認められるようなイベントが起こるのか…

まぁ多分あなたが勇者様ですか!? 世界救ってくださ〜い 魔王倒してくださ〜い とかそんなこと言ってるんだろ

頷いた俺を見たじじい達は嬉しそうに笑顔を浮かべ手招きをした


「着いて来いってことか?」


俺が頷くとじじい達は踵を返して歩き出した

どうやら俺の考えは何かとあっているらしい言語が分からなくても何とかなっているのはラノベの読みすぎのせいなのか そうなら生きていたころの俺に感謝だな まぁ今も生きていると言えば生きていることになるのかもしれないが…  何はともあれこの川名輝様の勇者物語の始まりって訳よ!


少し歩くと異世界でよく見るいかにもな城が見えてくる 城壁があり門がありその傍には当たり前のように武装した警備兵が鎮座していた

こちらに気づいたなのか姿勢を正し敬礼をしていた じじい達はその警備兵達にこれっぽっちも頭を下げることなく門もくぐっていきやがった  代わりに俺がしといてやろう 門をくぐった先は中世ヨーロッパのようだった 多分… いかにもな異世界って感じの風貌だ

石と木でできた家や店が所狭しとと並んでおりその前には屋台がずらっと並んで他の店としのぎを削って商売をしており大勢の人で賑わっていた がじじい達に気づいたのかそろそろと道を開けている こういうところでもじじい達がこの世界での地位が高いことが伺える 屋台を横目に歩いていると

また城壁が目に入る 門の前にはさっきよりも多くの警備兵がいた その先に見えるはここに入る前から見上げることができていたあの城が聳え立っている 城下町とは一線を画すような風格を放っており城下町の建物のそのすべてが木や石なんかで作られてるのに対しこの城はすべてがレンガ造りとなっている それに馬鹿でかぁい 異世界での城への入場といえば相場は決まっているよなぁ ラノベを読みつくしていた俺なら分かる

これから始まるのは多分王様との謁見だ 王様の隣には可愛い王女様がいてぇ 勇者様、貴方の妻にしてくださいなんていわれちゃったりして それにどんな最強装備がもらえるんだろうなぁ なんでも呪文を跳ね返す鎧かなぁ すべての属性を扱える剣も熱い それかケチな王様だったら100Gだけなんてことも… 何はともあれ期待に胸躍るイベントだな!

腕組をしながら妄想に浸たりながらうんうんと頷いているとこの世界ではもう絶対に聞くはずのなかっであろう言語で喋りかけられる


「やぁ もしかして君も日本出身かい?」


(今のって日本語…だよな…? それに君もってことは…)


後ろを振り返ると俺よりもほんのちょっと若そうな好青年が右手を挙げて立っていた 

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