方言小説

@omuro1

夕虹は晴れ

今日も現場は、いきり暑い蒸し暑い

体はまるで絞られたかのように汗を流し、服は肌に貼りついて離れない。

喉の渇きを覚え、水筒に手を伸ばすが、知らんでる間にいつの間にか、中身はすっかり空っぽになっていた。


「小休止~」と上司の声が響くと、皆が一斉に上着を脱ぎ、バリケードにそれをふわりと掛けた。

取り合うように日陰を目指し、所かまわず腰を掛ける。


「服に、塩吹いてる。」

同僚の黒のアンダーシャツには、白のマーブル柄が浮かび上がっていた。

汗に含まれるミネラル分が乾いて、結晶として現れているのだ。

これもある種、美しい労働の勲章と言えなくもない。


かえちあるけ着替えは、あるか?」

先輩の問いかけが、「ゴゴウゴゴウ」という遠くの花火のような音と共に広がり、思わず空を見やった。

同僚は大きな声で「ある」と答え、次いで僕が「黒い雲が来てる」と告げる。

やいやいやれやれ、じゃあちゃっと急いでやらにゃーやらないと

先輩は、しかめたように微笑んで、そう続けた。


東から風が吹き、杉の梢を揺らす。

湿った冷気が、清涼感をもたらすが、それも束の間の慰めに過ぎない。

乾ききらぬ作業服に袖を通し、ふたたび現場へと飛んでいく走り出す



── 仕事がひと段落ついた途端、ぽつぽつと雨粒が落ち始め、その刹那、稲光が瞬いた。

やいおぉ、雷様の、お出ましじゃん」

と、その声は高い。


後輩は編み上げの作業靴を脱ぎながら、「あー、俺えらい疲れたから、明日休むわ」と口走る。

現場を上がる安堵感からか、皆が口々に軽口を叩いている。


僕はエンジンを始動させ、カーエアコンを全開にするが、リアゲートは開けっぱなしだ。

リアゲート下のわずかな空間で雨風をしのぎながら、皆で靴を履き替え、着替えを済ませていく。


やいおい、そろそろ、行かざー行こう

すでに夕立は過ぎ去り、空には鮮やかな虹が架かっていた。

また、明日もきっと暑くなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

方言小説 @omuro1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ