おまけ - マキニス・モエキア（宮塚恵一）

　――以下読み飛ばし推奨（物語には関係ないどうでもいいこと）。

　かつて単眼症候群（キュクロプスシンドローム）と呼ばれた症例がある。今は単に単眼（キュクロプス）と呼ばれるだけだが、その症例が世界中で確認され始めた頃には、当時は特異なその見た目から単眼（キュクロプス）は差別された。単眼（キュクロプス）は激昂しやすく、人々に害を為す悪魔の遣いだと信じる新興宗教の勃興と、その信者が東欧において与党勢力となり単眼（キュクロプス）虐殺（ジェノサイド）を起こしたことは、誰もが歴史の授業で習うことだ。単眼（キュクロプス）は先天奇形の一種である単眼症とは異なる。原因は特定されていないが、一種の突然変異（ミュータント）であり、白色人種（コーカソイド）、黒色人種（ニグロイド）、黄色人種（モンゴロイド）の人種を問わずに単眼（キュクロプス）の子供達は産まれた。単眼症候群（キュクロプスシンドローム）の特徴は三つ。顔面の中央に単眼が存在すること、産まれつき腕が太く長身であること（大人になった際の平均身長は二.五メートル）、肌の色が緑褐色であること。現在は世界人口の約一割が単眼（キュクロプス）であり、一つの個性として扱われている。現在の人工知能による社会形成の始まりとなった経済分析を司る人工知能（マーモン）の設計者は単眼（キュクロプス）であり、その他にもポルニアでマキニス・モエキアの初号機を製作した初代社長も単眼（キュクロプス）であるなど、現代においては各界で成功を収める単眼（キュクロプス）も少なくない。私も多分に漏れず単眼（キュクロプス）である。単眼（キュクロプス）への差別は前世紀に比べればなりを潜めたが、双眼から単眼（キュクロプス）への差別意識そのものの改革にはまだ至っていない。そんな中でも、有紗は私が単眼（キュクロプス）であることなどお構いなく付き合ってくれた数少ない女性だった。私はだからこそ彼女の自由を求めた人生には敬意を表する。私にポルニアを教えてくれた友人（フォロワー）は双眼だが、友人（フォロワー）や有紗、そして私が熱狂した新基軸バンドのボーカルも単眼（キュクロプス）である。私はそこにも勇気を貰ったし、私と同じような単眼（キュクロプス）がこうして多くの人々から支持されていることを誇りに思う。