第19話 可能性という名の魔力放出

「でも……。本当にこんな事だけでよろしかったのですか?金銭の全ては勿論。エルフである私自身さえをも差し出す覚悟でいたのですが……。このように『魔法の訓練に付き合って欲しい。』だけなんて……。」


「あら、不服なの?妻帯者である男に身を差し出すなんて真似、この男が許しても、私は絶対に許さないわよ?ええ、絶対にね。」


「おいおい、お得意の八方美人の外面が外れかけてるぞ。てか、何度も言っているが俺はもう妻帯者じゃない。今の関係は言わばビジネスパートナー。そんな感じだろ?」


「はっ?何ふざけた事を言っているの?そんなしょうもない言い訳で私からリグレアに乗り換えようとしているのかしら?あなたはよっぽど私に処されたいみたいね?『武器の貯蔵は十分かしら?』浮気男さん?」


「待て待て待て!誰もそんな事は言ってないだろ!?攻撃性が過ぎるぞ!お前!

 わ、分かった!分かったから!お前との婚姻関係をまだ認めるから!だから、その戦闘モードみたいな剣呑さを収めてくれ……。」


「何よ。この後すれ違いざまに『…お前を殺す。』という流れまで想定済みだったのに、アテが外れたわ。それで……。リグレア?あなたもその身を差し出すなんて事言わないわよね?絶賛ラブラブな私たちに向かって。」


「は、はいぃ……。も、もう言いません。真面目に魔法を教えましゅ……。」



 エルフ族でハジメたちに襲い掛かって来た男、フワレスの凶行が突如として発生した謎の防護膜?によって防がれ、あわや大惨事になりかけた後、その母兼里長でもあるアルテアの登場によって、九死に一生を得たハジメ、カザリの両名であったが……。


 たった今ハジメは先程の攻撃とは別の意味で危機的状況に陥っていた。



 先程男の強襲の後、ハジメとカザリは里長宅に招かれると、そこで今後の事について少しだけその場で話し合ったのである。


 ざっくり言うと、エルフの里に数日間の滞在を許可され、リグレアが行った指名依頼の報酬を支払うと言った内容であったが……。


 その報酬についての話し合いで少しだけ揉めたのだ。勿論それはハジメたちが無理な報酬を求め、それで揉めてしまったなどのありきたりな内容などではなく、むしろ彼らが最低限の報酬のみを求めた為揉めたのである。



「まあ、そうイジメてやるなよ。これから魔法を教えて貰う立場なんだから。ほら、リグレアさんも涙拭いて、鼻チーンして?綺麗なお顔が何だか残念な感じになってるから。」


「……何よ。これじゃあ私が悪者みたいじゃない。そもそも、あなたが私の事を不安にさせるような事を言うのが悪いのよ?あと、さり気なくリグレアのお世話をするのは止めなさい。変なフラグが建ったらまずいわ。」


「いや……。世話しないといけなくなったのお前のせいだからな?お前がリグレアさんに詰めるからこんな事に……。ん?何かリグレアさんの肌って若干の解凍がされたぷるぷるな雪◯だいふくみたいで柔らかいな。」


「あ、あにょ?顔に触れるのはいいんれすけろ、ほーをグーっと引っ張ひっはるのはやめ……。」


「あなた?最愛の妻の前で他の女の頬をもちもちして遊ぶなんていい度胸ね?そんなにも地雷の上で反復横跳びをしたいのなら、こちらにも考えが……。にゃんのつもりにょ?」


「いや……。何だか知的好奇心が刺激されてな。でもそうだな。リグレアさんのぷるぷるな感じもいいんだけど、カザリのスベスベでいてその上で少し弾力がある感じの方が個人的には好みではあるな。うん。」


「ふん。そう思ったのならこちらだけを優しく愛でる事ね。今ならあなただけの特別サービスで24時間365日触り放題の権利と義務を進呈するわ。権利としては文字通りいつでも好きな時に私を愛でる事が出来る権利ね。

 そして、義務としては……。24時間365日の間、私と一緒にいる必要が発生するという事ね。あら?これはもしかしなくても、どちらもご褒美でしかない神サービスかしら?」


「いや、唐突な上機嫌だな。そのRPGでよく見る呪いの装備みたいなサービスは置いておくとして、触り心地がいいのは事実だしな。流石に四六時中触りたい訳じゃないが、たまに触るくらいはしたいかもしれん。」


「そう、ちなみにあなたが私の頬に触れた時点でこのサービスは開始されているから、この契約は有効に機能する事になっているわ。時々、集金と称してあなたからのお金を徴収するつもりだから……。どうぞよろしくね?」


「何だよ……。強制契約含め、某テレビ局みたいな事しやがる……。なんか断ったら怖そうだから受け入れるしかないか……。

 って!悪い。そんな悲しそうな目でこっちを見ないでくれ。リグレアさん。その!リグレアさんもすごい良かったぞ?ホントに。」


「……いえ、どうせ私なんて頬がちょっとぷるぷるなだけのただのエルフなんです……。

 大丈夫です。ちゃんと分かってますから。こんな素敵でカワイイ奥さまの前では、私なんてほとんど空気のような存在です……。」


「もう……。あなたが素敵でカワイイ奥さまと比較なんてするから、リグレアが拗ねちゃったじゃない。乙女の柔肌に優劣を付けるのは如何なものだと思うわ。まあ、私の方がと言われれば悪い気はしないけど…っね?」


「いや、おま言う?フォローに見せ掛けてさり気なくマウント取ろうとするな。って、ホントに何の話してるんだ……。そうだ!魔法!

 とりあえず、今回の報酬の代わりとして魔法を教えて貰えるんだから……。ここで何とか物にしないとな。だから今日は、相方共々よろしくお願いします!リグレア先生!」


「は、はい!こちらこそ、よろしくお願いしますね!その……。は、ハジメくん?」


「お、おう!リグレア先生が好きなように呼んでくれて構わない。いや!その新鮮な感じがいいからハジメくんでお願いします!」


「……私からもよろしくお願いするわ。あとそれの事は犬でも駄犬でもどちらか好きな方で可よ。ちなみに私のオススメは駄犬ね。蔑みながら見下した口調で呼ぶと彼は喜ぶわ。

 ……全く。誰にでも尻尾を振るような駄犬にはキッチリとした調教が必要かしら?」


「そ、その……。色んな意味で問題がありそうなので、ハジメさんとカザリさんのままでいきますね?私の事はリグレアと呼び捨てで呼んでいただいて構いませんので。」


「「ああ(ええ)よろしく。リグレア。」」



 そうして、ようやく始まったリグレアによるハジメ、カザリ両名への魔法の初級講座。


 カザリは火、水、土、風の4属性、ハジメはカミナリ?=雷属性だと仮定しての1属性をそれぞれ訓練する事となった。



 訓練の内容としては意外とシンプルで、それぞれの属性に関する事象、例えば火であれば火災、水であれば洪水など。それぞれの属性に近い事象を思い浮かべると、その属性の力を引き出しやすいようである。


 ここで『なぜ災害などを思い浮かべる方が良いのか?簡単に火や水などを直接思い浮かべれば良いのではないか?』と、カザリがリグレアに質問した所……。



「はい。勿論それでも属性の力を引き出す事は出来ると思いますが、魔法は想像力が力に直結しやすい事象なんです。

 だから、より強い事象。例えば災害などの自然現象のような大きな事象を想像して魔力を引き出した方が、よりしっかりとした力を引き出しやすいとされているのです。」


「成程、力を引き出す段階でも想像する事象によって優劣が存在するのね。なら、私の適性属性の火であれば……。こうかしら?」


「えっ!?な、何ですか?この火属性の魔力の高まりは!普通、魔力を高める段階では属性の象徴を視認するなど出来ない筈なのに。

 カザリさんの場合、火属性の魔力が吹き出すように身体の周りを渦巻いてる?」


「おー!何かカザリの周りを火が漂ってる!見た目は今リグレアが言った通りなんだけど、それって熱くないのか?別にお前の服に燃え移ったりしていないから、ただのエフェクトだけだとは思うんだけどさ……。」


「そうね。ほんのりあったかい位で別に熱くはないわね。でも、触るのは止めた方が良いと思うわ。今私が身体の内側に引っ張っている感覚があるのだけど、この炎は外に外に飛び出そうとする力が働いている気がするのよ。

 もしかしなくても、これを放出するのが魔法って事なのかしら?気合いを出せば抑え込めると思うのだけど……。どうかしら?」



 すると訓練を始めてからすぐに、早速カザリの身体から炎がじんわり湧き上がったかと思うと、カザリを覆うように炎のエフェクトのような物が身体の周りを漂い始める。


 リグレアはカザリの魔力を引き出している姿に愕然とした様子であるが、ハジメは多少テンションが上がっている程度の軽い反応でカザリの周りを覆う炎を見て、冷静に現在の状況の質問を彼女に投げかける。


 また、質問を受けた側のカザリも現在の自分の状況を冷静に分析しており、カザリは勿論、ハジメも魔法に関して初心者とは思えない程の観察力と洞察力である。



 そんな二人の落ち着いた様子にリグレアも徐々に落ち着きを取り戻したのか、カザリに尋ねられた質問に対し、慌てて答える。



「そ、そうです!よく分かりましたね!その外に放出しようとする力が高まったタイミングで魔法名を唱えると魔法を放つ事が出来るのです。なので、まずは初級魔法の練習として『火の玉』を放つ事から始めましょう。」


「うーん……。そのまま放つのもいいのだけど、このまま放ってしまうと少しマズいような気がするわ。火力強めと言うか……。恐らくだけど、火の玉位の可愛い魔法が出るとは思えないのよね……。予想ではそこら一体を焼き払う程の爆発を伴う火球が放たれるような気がするわね。さながら『エクスプロージョン!』とでも言うべき爆裂の魔法かしら?」


「いやいやいや!何爽やかな笑顔で爆発しようとしてんだ?キャンセル!ヤバそうだから今すぐキャンセルでお願いします!」


「ふっ、バカな事を言うのね?臨界まで近づいた魔力を無理に我慢するよりも、解き放って放出する方が気持ちいいとは思わない?

 あとこれは残念なお知らせなのだけど。そろそろ我慢の限界が近いようだわ。これはもう放出する他ないと言える状況ね。」


「なっ!?だ、駄目ですよ!?その……。エクスプロージョンというのが何なのかはよく分かりませんが……。爆発するかもしれない程の火球を放つのは非常に危険です!

 正直信じ難いのですが……。まさか初級魔法以上の力を初めての魔力放出で行う事が可能だなんて……。で、でも、これ程までの魔力量で放出されてしまえば、この場所だけでなく私たちの身にも危険が!」


「でも、制御するにも……。あんまり力のコントロールが上手くいっていないのよね。こればかりはまだあなたに教わっていない事なのだから、少しばかりは多めに見て欲しい所ではあるわね。あっ……。そろそろ本当にヤバそうだわ。なるべく被害は出さないように空に向かって放つから離れておいて。」



 すると、カザリの周りを渦巻く炎のエフェクトがより一層激しく明滅したかと思うと、ゴウッ!と激しい音を立てて立ち昇った火柱が彼女の周りから噴き上がり始める。


 だが、そう言ったのも束の間。カザリの魔力が放出されそうになって……?

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異世界に転移したけど、ヒロインが元妻で一緒にってマジ? リン @28118987

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