第三回 短編小説の紹介(#16~30)

インタビュアー:砂原

返答:西奈りゆ


砂原:というわけで、三回目ですね。今回は、後半戦ということで、よろしくお願いいたします。


西奈:よろしくお願いいたします。いつの間にか、こんなに書いていたんですね。これを機会に、自作を客観的に振り返れればと思います。


♦新年度の短編作品


砂原:2024年、第一作目は、表題が唯一英語表記の、「CUBE.」(#16)でしたね。「何をしたいんだろう、何をするべきなんだろう」という主人公の心の声が印象的でした。


西奈:改めて、書きたいものが見えてきた感触があった作品ですね。自分に困惑しているというか、持て余す・・・・・・というより、シンプルに、生きることが苦手というか、苦手になっているときというか。パズルに絡めた「ジレンマ」と、「日々の悲しさ」という視点で読んでくださった読み手様もいらして、ああ、そういうものを書いたんだな、書きたいんだなと。


砂原:以前、エッセイで西奈さんの作品のテーマのひとつに、「喪失」というものがあるというのを拝読しました。その辺りがまたひとつ明確になったということでしょうか?


西奈:そうだと思います。僕はどこか大前提として、「喪失」を想定して生きているところがあるので、その情景を切り取っていたほうが自然に息ができるんです。


♦「喪失」


砂原:「喪失」を前提にしているというのは、何かを失うことを前提にしている、ということでしょうか?


西奈:そうですね。「生まれた瞬間から死に向かっている」というのと似ているんですが、「失いながら生きていく」という感覚が強いかもしれないです。僕の好きな本のひとつに、オットー・ランクの「出生外傷」があるんですが、人間は母体という万能な世界から、不自由なこの世に生まれること自体が心的な外傷体験、いわゆるトラウマ体験に晒されることと同義であり、その外傷を補うかたちで生を発展させようとする、といった理論なんです。そうした働きをするものとして芸術活動も挙げられていますが、自分としては染みるように納得できる理論でした。


砂原:そういった感覚は、いつごろからお持ちになっていたのでしょうか?


西奈:ある程度考える力がついていないといけないはずですが、少なくとも思春期にはそちら寄りの感覚を持っていました。あの頃は、ゴスロリなどの退廃的な分野やそうした分野で活躍されている方に強く惹かれていましたね。宝野アリカさんの「少女遊戯」という詩集が、愛読書でした。おそらく宝野アリカさんご本人なんですが、お人形と見紛うばかりの写真を使用した表紙の、「死」の匂いと「気高さ」が同居する美しい詩集です。そうした作品に心底憧れていたあの時期も、「生のかたち」を彩る、今の僕の原点かもしれません。


♦カクヨムコンテスト2024


砂原:紙面の都合上、続けてカクヨムコンテストのお話に移りますが、今回初めて挑戦されたということでしたね。


西奈:「絶対できっこない!!」って、思ってたんですよ。でも、書くだけなら、意外とできました(笑)


砂原:全部で6つの作品を提出されていますが、ご自身の作品を振り返ってみて、どのようなご感想をお持ちになりましたか?


西奈:まず、筆が安定していないです。お題に沿っているのである程度は仕方がないですが、すんなり話として成立している作品もあれば、無理に書いたなというのを後で読んで読み手として感じる作品もあります。ただ全体的に言えるのは、考え込むより気楽に楽しんだ作品は話として読みやすかった、というところでしょうか。


砂原:差し支えなければ、そう思われた作品をそれぞれ挙げていただけますでしょうか?


西奈:そうですね。まず楽だったのが、「そのくらいにして。」(#19. お題:ささくれ)ですね。僕が思い出したころにやる「現代ドラマ」のパターンですが、やっぱりこういう展開は大好物だなと(笑)。反対に、反省点が残るのは「百合の花、輝く頃の。」(#20. お題:「はなさないで」)です。別に★の数で判断しているわけではないですが、個性を出そうとして中途半端な結果になっている。同様のテーマなら、「今年の夏は、きっと雨になる。」(#9)のほうが良かったです。書きたいものに対して力みすぎると、自分の書きたい本質から脱線するんじゃないかと思います。それこそ、先ほど話題になった「CUBE.」(#16)で描いたような、「ジレンマ」なのですが。


♦短編への集中期間


砂原:ちなみに私の主観的な感想なのですが、西奈さんは最近、急いで短編を書かれているように感じるのですが・・・・・・。


西奈:鋭い方は気づかれていると思いますが、仰る通りです。本音はじっくり長編を書きたいんですが、なんだか常に「もう二度と短編なんて思いつかないんじゃないか・・・・・・」という、流行り病のようなものに罹っていました(笑)


砂原:いわゆる「スランプ」期間というものでしょうか?


西奈:期間というか、いつもそうなんですよ。軽く考えることができなくて、とにかく正面衝突しちゃうんです。けど、傷はつきましたが収穫はありました。全般的に★の数が伸び悩んでいるんですが、いただいたコメントで励まされたり、思いがけないかたちでの学びが多くて。


砂原:と、いいますと?


西奈:「ささるポイント」は、意識しても掴みようがない。というか、意識したほうが外れる。さっきのカクヨムコンと似たような話ですね。


♦「推し」たい作品


砂原:そのような時期にあえてこのかたちでお聞きしますが、後期の短編を振り返ってみて、西奈さんとしてはどの作品を推していきたいですか?


西奈:標準的に読めるという意味では、「あの子は死んだ。」(#24)や、「あの両の手から。」(#25)を挙げます。ある意味、僕のスタンダードな作風で、ある程度その通りに仕上がっている作品だと思うので。そういう意味では、これは中編扱いにしていますが、「ベリー・ベリー・ホワイト」(#26)は、挑戦作ということで広く読まれてほしいです。自分の中でもどう位置付けていいか分からないところがあるので、いろいろな感想を聞いてみたいと。そして、一番推しは「ぬか床ぬか子の笑みと生意気」(#30)ですね。


砂原:ああ、読者の方も書かれていましたが、なんとも可愛らしいお話でしたね。「ぬか床」を持ってくるかぁと、驚きました。


西奈:我が家に初のぬか床が来たから、擬人化してみたんですよ(笑)。自分としては気に入っている作品なのですが、意外と人目についていないので、ぜひどなたかに読んでいただければと。あ、もう時間だいぶ過ぎてますね。


砂原:本当ですね。じゃあ、私は直帰します。本日はどうも、ありがとうございました。


西奈:(お読みくださった方、)お疲れ様です。ありがとうございました。





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勝手にインタビュー!(すべてセルフです) 西奈 りゆ @mizukase_riyu

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