赤花

 友達が学校の屋上から飛び降りた。落ちた場所は花壇で、私は環境委員会の水やり担当だった。三日くらいはそこ周辺の花壇に近づくことすらできなかったが、一週間もすればいつも通り水やりをしていた。まっさらな暗い土に向かって。

 彼女がなぜ自殺したか、という議題はしばらく学校中の話のタネとなった。なにせ、彼女は一見して普通の学生であったから。それは私から見てもそうであった。

 水やりは昼休みと部活前の時間に行っていた。花壇も正面入り口の横にあったため、出て来た生徒を横目に水やりをしていた。その全てに私は興味がなかった。花も人も。だけど、彼女だけは知りたいと思った。お互い唯一の友達だと言ったけれど、彼女には彼氏がいたし、私には花がいた。花はキスをしないけど、私の話をちゃんと聞いてくれた。

 一人で水やりを続けて、何ヶ月も経って、ようやく咲いたのは、薄切りの肉の花弁を付けた花だった。滲んだ汗の様な真っ赤な水滴がどろりと土に流れ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そこにあなたはいないだろう 高梨 梓 @himazin-hiiro3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ