第5話 スタートライン

母さんと父さんから、『放課後シスターズ』として活動していくことを応援して貰った。 

 

 そうして両親から後押しされたボクは、『放課後シスターズ』に加入することを決めた。 

 

 両親には認めて貰ったが、ITUBEでのアンチユーザーによる批判コメントは止まない。 

 

 皆からは認めては貰えないんだな。そもそも、認めてもらうべきなのか? 

 

 自分だけでは分からなくなった。 

 

  

 プロデューサーならなにかアドバイスをくれるかな? 

 

以前、佐藤さんから貰った名刺に記載されている携帯番号に電話してみた。 

 

佐藤さんには3コールで繋がった。 

 

 

「はい、放課後シスターズプロデューサーの佐藤です」 

 

ボクは佐藤さんの声を訊くと肩の力が抜けて安心してしまった。 

 早速、話を切り出そうと口を開く。 

「あ、あの!もしもし、佐藤さん。椎名です!!夜分遅くに失礼します」 

 

第一声が大きくなってしまって自分でもビックリした。 

 

 

「真城さん!?どうしたんですか?こんな夜分に」と訝しむ。 

 

「ちょっと、自分一人で考えてもまとまらなくてまとまらなくて」 

チャンネルで未だ、炎上が続いていることを言ってもいいのだろうか? 

 迷惑じゃないかな?そう、戸惑っていると佐藤さんの方から「なにかあったのですか?」 

と訊いてくる。 

 

「はい、実は、佐藤さんから『放課後シスターズ』にスカウトされたことが、ボクの配信切り忘れで 

 

ITUBEで配信されてしまったんです」 

 

「そうだったんですか。詳しく話をして貰っていいですか?」 

佐藤さんは、真摯になって聴いてくれた。 

 

 それが嬉しくて、真城は意を決して言葉を紡ぐ。 

 

「それで、ネットユーザーの批判を買ってしまってお、男なのにアイドルなんて気持ち悪いって」 

 

「その批判的なユーザーは元々、真城さんのリスナーだったんだよね?」 

 

「はい、そうです」 

 

「そうか。それはきっと、真城さんが変わってしまうことが怖いんじゃないかな」 

 

 

「そ、そうなのかな?分からないです」 

変わってしまうのが怖い?いったいどういう心境なんだろう? 

 

「佐藤さん、そこのところをもう少し詳しく」 

 

「リスナーの皆が真城さんが知らない真城さんに変わってしまうのが怖いんだよ。だからそれを受け入れられないんだよ」 

 

そう、それは、部長が俺の退職届を受理してくれなかったことと同じことだと思う。 

 

「だから、真城さんの『カワイイ』が『キライ』より勝ればいいんじゃないですか」 

 

「そ、そうなんですね」 

 

『キライ』よりも『カワイイ』が勝ればいい。その発想は自分には無かった。 

 

人から嫌われることに人一倍恐れるボクには考えもつかないことだった。 

 

*** 

中学二年の夏休みのこと。ボクは、友人から、女装コスのことを教えて貰った。 

以前、『放課後シスターズ』のライブで観た、未来ちゃんのコスプレをして楽しんだ。 

 

ボクは、羽目を外してしまっていて、とある目撃者の存在に気付けづにいた。 

 

夏休みが終わり、学校に行くと、クラスメイトの陽キャの男子から衝撃的なことを言われる。 

 

『お前、夏休みに女装していたよな!?」 

弱いものイジメをしているクラスの陽キャ男子からそう言われたことで、ボクは一瞬なにを言われたのか分からなくて固まった。 

 

そして、その男子生徒は、ボクの心を更に抉る言葉を言い放った。 

 

『男のくせに女の格好をして、気持ち悪いんだよ!』と心無い言葉を浴びせられた。 

 

ボクは、頭の中が真っ白になった。見られていた!?迂闊だった。 

 

同じ学校の生徒も見に来るだろうとは少し考えれば分かったろうに、浮かれていた! 

 

それから、学校でボクのことを知る生徒から後ろ指を刺されることが多くなり、いわれのない噂まで流されて、学校に居場所がなくなり、学校を休むようになって、終いには、完全に学校に行かなくなり不登校の引きこもりとなった。 

 

 そんな時、妹のかなでから「わたしが女装コスを勧めたばかりにこんなことになっちゃってごめん」と深く、謝罪された。 

慰められたいんじゃない。『ありのままでも大丈夫だよ』と背中を押されたかったんだ。 

 

それから、少しずつ外に外出するようになって、遂には立ち直ることが出来て、引きこもりを克服したのだった。 

 

*** 

「真城さん、聞いていますか?」 

 

「あ、はい聞いています!すいません。少し、昔のことを思い出していて」 

 

「まあ、人気者になるとアンチが増えてくるのはアイドルの主命ですね。あまり気負わないようにすることですよ」 

 

「はい、わかりました。でも、ボクどうしても気になってしまうんです」 

 

過去のトラウマが蘇り、再び、ボクの心を苛んでいく。 

 

 今度は、顔も知らないネットユーザーから。街を歩いていても、他人から好奇な目で見られているのではないかという疑心が心を支配していた。 

 

 もう、ボクの『好き』は誰からも理解されないんじゃないか? 

 

 そう考えると怖かった。 

 

「そうだ!こういうのはどうですか?アンチは皆、ツンデレだと思えばいいんですよ」 

 

「え、ツンデレ?」 

 

なんで、『ツンデレ』が出てくるんだろう?意味が分からない。 

 

「『ツンデレ』ってあれですか?マンガやラノベのヒロインが『あなたのことなんか別に好きじゃないんだからね!』って言うアレですか?」 

 

「そうです、コメントでは好きじゃないと言っていても、本心は逆。真城さんのことが本当は好きで好きでしょうがないのに、恥ずかしくてツンツンしてしまうんです」 

 

「あー、なるほど」 

 

「そう、思うと、アンチが可愛く思えてきませんか?」 

 

「そうですね、可愛いです」 

こんな発想の転換があるなんて思いもつかなかった。流石という他ないだろう 

「そういう風に思わないとアンチを真に受けていたら、このアイドル業界はやっていけないですよ」 

 

「アドバイス、ありがとうございます」 

 

こうして、佐藤さんの提案は、運営側にも採用されて、ボクのアイドル名は椎名ましろと決まりの初公演を、動画で撮影し、ライブ配信して、全世界に公開したのだった。 

 

『誰だ、あのカワイイアイドルは!?』 

 

『こんな娘知らないぞ』 

 

『超新星、現る』 

 

『推した‼』 

 

『ヤバイな、カワイイじゃねえか』 

 

『推しちゃおうかなー』 

 

『あ、俺も』 

 

 

 その結果、動画のコメント欄が椎名ましろへの『カワイイ』の賛称の声が『キライ』より圧倒的に上まり、アンチを黙らせることに成功したのだった。 

 

 そして、真城は、『放課後シスターズ』としての活動が出来るようになり、『放課後シスターズ』としても 

椎名ましろとしてもスタートラインに立ったのだった。 

               ***


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男の娘VTuberなんだけど正体を隠してアイドル活動を始めました~男だとバレたら即炎上~(短編) 高月夢叶 @takatuki

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