意思3
石は警告するように振動する本能と、ざわめく意思と共に、その気配を目指した。軽快な音を立てながら瓦の上を事も無げに転がっていく途中で、石は、1枚だけ瓦の欠けている部分に落ちた。そして湿式工法に用いる土にズブズブと沈み始めた。石は即座に取り込まれ、土は石の密かに持っていた存在感も呑み込んで、凪いだ。薄く敷かれた土の中はひんやりとしていて、野地板は基板らしく静かな硬さを保っていた。その、風も光もない本物の闇がこれから石のいる環境になるのだ。それは絶望を感じさせたが、その痩せぎすな絶望の中には、石という希望がいた。希望を発し、土の中を泳ごうと試みる石は、2度目の進化を果たしていた。そして、土の中にいても、あの気配が石の様子を伺うように醸し出されているのを感じられた。それは、絶望の外の希望だ。強風に吹かれたかのように石の本能が揺さぶられた。意思は誕生した時のように、石のすべてのエネルギーをエンジンのように推進力に変えた。その異変は石だけでなく、闇にも起こっていた。風は粘り気のある闇を巻き込んで大きな渦を成し、瓦はその風に身を委ねるように次々に剥がれていった。そのカオスの佳境の中心に石はいた。木造建築の独特な悲鳴に似た軋みと鋭い風に洗われていく粘着性を失った土の中で、石はその意志で気配のあるところに進む。その意志は長く持たないが、意志は石のこれまでの我武者羅な前進と、風と瓦と光と希望と、本能と、そして意思と愛が編んだ力だ、その力が出涸らしになるまで進む他ないのだ。剥がれた瓦が石を小突く度にヒビが入る、その細かい傷から種子がこぼれ落ちる。自身の異変を感じるよりも、意志が先行して石の主導権を握った。
情動 @Amanoru
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