おまけのお話 ②
「パパはボルボレッチーニャ(蝶々ちゃん)の方が良いと思うけどな〜」
夢の王宮では、花壇の花の色と同じ色の蝶々しか飛ばないのだが、他の花壇にも行ってみたいと願うボルボレッチーニャ(蝶々ちゃん)の冒険物語の絵本をオリヴェルが掲げても、
「嫌なの!バラチーニャ(ゴキブリちゃん)がいいの!」
と言ってギャン泣きするほどミカエラはバラチーニャに夢中なのだ。
「子供たち〜!今日もとってもみんなキュートで元気で可愛いで〜すね〜!」
今日は子供たちと一緒にやってきたカタジーナが伯爵家に集まった子供たち全員にハグをしていくと、最後のミカエラに大きな包みを渡して、
「ミッチーニャ欲しいと言っていたの持って来ました〜!お着替えしましょうか〜!」
と、言い出したのだ。
ミカエラはとにかく天使のように可愛らしいのだ。離婚後、鬱状態だった父ジグムントが孫可愛さに王都までやって来るほど可愛いのだ。誰しも自分が選んだ可愛らしい洋服をミカエラに着せてやりたいと考えるのだが・・
「「「「キャーーーッ!可愛いーーーーっ!」」」」
カタジーナにプレゼントされたミカエラは満面の笑みでやって来たのだが、彼女が着ているのは茶色のドレスで、背中には羽が付けられている。羽と言っても蝶々のような鮮やかで可愛らしい羽でもなければ、天使のような純白の羽でもない。茶色が四枚、濃い茶色の厚手生地の二枚の羽の下には、レース生地の茶色の羽が存在する。その形は、オリヴェルが最も嫌う、アイツの背中についているのと同じ形状だったのだ。
その日の夜、押し潰されそうなほどの焦燥感を抱えながら寝室のベッドにオリヴェルが腰を下ろしていると、
「あなた、どうしたの?」
と、気遣うようにカステヘルミが声をかけて来たのだが・・
「カステヘルミ・・君は洗脳されている」
「はい?」
「君たちは完全に洗脳されているよ!」
オリヴェルは涙で紺碧の瞳をうるうるさせながら言い出した。
「いくらミカエラがバラチーニャ好きだからって、わざわざゴキブリドレスを作るなんて!正気とは思えない!君たちは完全に洗脳されている!」
「まあ!あなたったら!」
カステヘルミはコロコロ笑いながら言い出した。
「あのドレスはカタジーナ様がミカエラくらいの年齢の時にご自身が着ていたものなのよ!」
「はあ?」
「カタジーナ様のお母様があつらえて下さったそうなのだけど、当時は物語に合わせたドレスを作るのが流行していたのですって。もちろん、ボルボレッタ(蝶々)も人気だったのだけれど、バラチーニャ(ゴキブリ)もとっても人気だったそうよ」
「何故?(ゴキブリが?)」
「まあ!あなたには分からないの?」
カステヘルミは呆れたようにオリヴェルを見つめながら言い出した。
「ミセスバラチーニャの子供たちは夢を見るでしょう?それはパン屋さんだったり、剣士だったり、色々あるのだけれど、子供たちは世の中にこんなに色々な職業があるのだと知って、自分だったら何になりたいかと夢を見るようになるの。貴族の子供に生まれたら、決められた道を進むしかないのだけれど、それでも子供の時だけは、ミセスバラチーニャの子供になったつもりで色々な夢を見ることを許される。だからこそ、ルーレオの貴族は誰もがミセスバラチーニャの子供たちの歌を歌えるのですって。自分が昔は何になりたかったのかということを、歌を思い出しては懐かしく感じるのよ」
カステヘルミはオリヴェルの手を握りながら言い出した。
「ミカエラは確かに微弱ではあっても洗脳周波数というものを含む声を持って生まれたわ。今は子供たちの中にミカエラに対して媚び諂うような子は出て来ていないし、ミカエラの可愛さにメロメロでも依存するような子までは出て来ていない。それでも、今後成長していったらどうなるかも分からないし、力が大きくなるようであれば、窮屈な思いをしながら生きていくことになると思うの。だからこそ、今くらいは自分の好きなことを好きなだけやっていっても良いじゃない」
ミカエラの母であるカステヘルミだって不安なのだ。それでも母として、ミカエラを正しい道に導こうと必死になっていることをオリヴェルは痛いほど理解している。
「俺はゴキブリが嫌いだから、過剰な反応をしてしまったのは謝るよ。ミセスバラチーニャを子供の情操教育に利用しているということなんだもんな。だけど、ドレスまで作るというのはやり過ぎだと思うんだが?」
「お下がりなんだから良いじゃない!それにとっても可愛かったでしょう!」
「まあ、確かに可愛かったけども」
茶色のドレスはプリンセスラインで作られており、スカート部分がふわりと広がって可愛らしいデザインとなっている。背中の羽さえなければこれがゴキブリドレスとは思えない出来だった。
「私はミカエラのこともお兄ちゃまのアルトゥのことも信じているし、愛している。だけど、私が洗脳されていそうだと感じたら今のように言ってちょうだい」
「うん」
「貴方が洗脳されているなって思ったら私も言うから」
「うん」
二人は引き寄せ合うようにして抱きしめ合うと、心の奥底から安堵したようにため息を吐き出した。洗脳する波長があるとかないとか関係なく、子供を育てるということは様々な問題に向き合い、対処をしていかなければならなくなる。それをどちらか一方だけが行うというのであれば、一人だけの負荷が大きくなるのは当たり前。伯爵家では洗脳という大きな問題を抱えているからこそ、その都度話し合い、二人で協力をする必要があるのだ。
「私・・最初こそ腹が立ってどうしようもなかったけれど、あなたと結婚して良かったわ」
「カステヘルミ・・ありがとう」
そう答えてオリヴェルは抱きしめる腕に力を込めた。
「ところで、カタジーナ様は何番目のバラチーニャになりたかったわけ?」
「剣士になりたい六番目よ」
「そうか・・」
ルーレオ王国から嫁いできたカタジーナはラハティ語で会話をしている時にはルーレオ訛りが出て非常にコミカルな喋り方になるのだが、母国語で話すとなると一気に迫力がある怖さが滲み出る。
「カタジーナ様は六番目か・・そんな気がしたよ」
何番目のバラチーニャの子供を選ぶかで、子供の特性も判断できるのかもしれない。
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おまけのお話はこれ以上続けると完全に話が長くなると思いまして(・_・;)。洗脳能力はどれほどなのかとか、集まったお友達への影響はいかにとか、それを育てる親はどうなるんだとか、色々と疑問が湧いてくるとは思うのですが、お題の『噂』とは全然関係ないお話となってしまいそうなので、ここで一旦終わりとさせていただきたく思います。また、機会があればみーちゃん話は別のお話で・・という形にしようかと思います!!ここまで読んでいただき本当に有難うございます!!
あとがき的なものを近況ノートにも書いていますので、もしご興味ありましたら覗いて頂けると嬉しいです!!
噂 〜私はいつでも一妻多夫を応援します!!〜 もちづき 裕 @MOCHIYU
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