おまけのお話  ①


『  私は八番目のバラチーニャ(ゴキブリちゃん)の娘な〜の〜

   私は楽器が大好きだ〜か〜ら〜

   バイオリンを弾いて世界を回るの〜

   だけどバイオリンの名手といえばグリーリョ(コオロギちゃん)だから〜

   ライバルを倒すのが大変なの〜                   』


 無茶苦茶だ・・無茶苦茶にも程がある。

 朝から娘の軽快な歌声を聴いていたオリヴェルは頭を抱えて項垂れた。


「ねえ〜!パパ〜!ミーの歌どうだった〜?」

「すっごい良かったよ〜!」

 オリヴェルは三歳の娘を抱き上げると、頬をスリスリしながら笑顔を浮かべた。

「だけど、何でバラチーニャ(ゴキブリちゃん)の歌なのかな〜、歌なら神殿の歌とか神殿の歌とか、色々とあると思うのに・・」

「ダメよ〜!それじゃあちっとも可愛くないじゃない〜!」


 笑顔で近づいて来たカステヘルミはミカエラには声が届かないようにオリヴェルの頭を自分の方へとグイッと動かすと凄みを利かせて言い出した。

「あなたはミーを聖女様にでも仕立て上げたいわけ?ゴキブリちゃんの歌でもこの威力なのよ?絶対に!絶対に聖歌を歌わすことなど出来ないわ!」


「そうか・・そうだよな・・俺が迂闊だったよ〜、だけど、何もバラチーニャ(ゴキブリちゃん)の歌じゃなくても・・」

「可愛いんだから良いじゃない!」

 オリヴェルは妻カステヘルミの圧力に屈した。


 すったもんだがあったものの、ラウタヴァーラ公爵家の長男と次男夫婦は仲が良いことでも有名だ。ニクラスとカタジーナの間にはフレドリク、ディオゴ、ミロの三人の息子が生まれ、オリヴェルとカステヘルミはアルトゥとミカエラという二人の子供に恵まれた。


 男ばかりがポコポコ生まれたことで安心し切ったところに生まれたのがミカエラだったため、

「うわ〜!ついに公爵家にご令嬢が生まれたんですね!待ちに待ったご令嬢!生まれなかったらどうしようかと思いましたよ〜!」

 と言って、マッティ・リトマネン博士ははしゃいだ声を上げた。


 ペルトラの娘であるパウラを母に持つニクラスとオリヴェルは、女児が生まれた場合は声の波長に洗脳周波数が含まれている可能性があるため、王家が継続的に調査をすると宣告されていたのだった。


 洗脳周波数を感知できるマッティ博士は、赤子の泣き声を聴いて、

「うーん・・微弱、とても微弱ですね〜、声帯が成長していくに従ってどう変化していくのか非常に興味深いです」

 と言って帰って行ってしまったのだが、以降、暇があればミカエラのところにやってくるマッティ博士は半分以上洗脳されているのかもしれない。


 ニクラスとカタジーナの間に長男のフレドリクと次男のディオゴが生まれたところで、鉄道事業もキリが良いところまで成功したため、オリヴェルは公爵家が所有する伯爵位を継承して独立することとなったのだ。


 ミカエラが定期的に診察を受けなければならない関係で、王都の邸宅での生活が続くことになったのだが・・


「こんにちは〜」

「遊びに来ました〜」

「「「こんにちは〜」」」


 今日も子供たちが集まりだす。

 ニクラスとカタジーナの子供、フレドリクとディオゴとミロの三兄弟だけでなく、鋼鉄の天才の子供、ヴィオラとロビンもやってくる。もう少しすればヴィオラの友人のマリーとルミもやってくる。


 伯爵邸は子供の遊具が豊富なため、飽きずにいつまでも遊べるのは間違いないのだが・・

「あ!ミカエラ居た!」

「ずるい!アルトゥ抱っこしてずるい!」

「僕はお兄ちゃんなんだからずるくない!」

「ずるい!ずるい!」

 この中では一番年齢が小さいミカエラはマスコットキャラクターのように人気があるのだ。


 オリヴェルの髪色である月光を溶かしたような銀色の髪に紺碧の瞳を持つミカエラは、顔立ちはカステヘルミに良く似てふっくらとした頬がとにかく可愛らしい。まだ三歳児だからお腹はぷっくりと出ているし、手足は短いし、歩く際にもトテトテしていてとにかく可愛らしい、兎にも角にも可愛らしいのだ。


「お兄ちゃま!お・ろ・ち・て!」


 足をバタバタさせたミカエラは抱っこするアルトゥの腕の中から滑り降りると、

「私は八番目のバラチーニャ(ゴキブリちゃん)の娘な〜の〜私は楽器が大好きだ〜か〜ら〜バイオリンを弾いて世界を回るの〜」

 と、歌い出した為、集まった子供たちはミカエラの歌にうっとりとするのだが、

「いや、ゴキブリの歌だから!」

 と、その様子を見ていたオリヴェルは心の中でツッコミを入れた。


 ミカエラが歌っているのはルーレオ王国の伝統的な物語に出てくる歌なのだが、オリヴェルにとってのゴキブリは、いつの間にか輜重に紛れ込んで食い物を漁る、不潔の象徴とも言える虫だ。それが隣国ルーレオでは身近なお友達なのだから驚いてしまう。


 ルーレオでは虫を擬人化した童話がたくさんあるのだが、その中でも『ミセスバラチーニャと十人の子供たち』というお話は、劇にして上演するほど人気なのだ。


 流石は一匹見たら百匹いると思えと言われるゴキブリである。ミセスバラチーニャ(ゴキブリちゃん)には十匹も!子供がいる!その一匹、一匹に将来の夢があり、料理が好きな子供はコックになることを夢見て、裁縫が得意な子供は将来は美しいドレスを作ることを夢見る。剣士を夢見たり、官吏を夢見たり、色々と夢見るのだが、八番目は楽器が好きだから演奏家として世界を回ることを夢見るのだ。


 ライバルのコオロギちゃんだけでなく、ネズミのお母さんやネズミの子供達まで出て来るのだが・・


「子供の教育としてこれはどうなんだろう〜」

「「問題ないし!良いでしょう!ルーレオの伝統的なお話なのよ!」」


 カタジーナとカステヘルミにそう言われてしまえば、抵抗のしようもない。こういった時には兄のニクラスは知らぬ存ぜぬの態度を貫き通すのだ。オリヴェルの仲間はゼロと言えるだろう。



    *************************


こちらのお話はおまけのお話となります。最後の1話を更新してこちらのお話は終わりとなりますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

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