なれそめとなにそれは似ているようで違う
大隅 スミヲ
【三題噺 #72】「単位」「父親」「額」
ゴン! という鈍い音が響き渡った。
それは骨と骨がぶつかりあった音であり、食らった瞬間に目の前が真っ白になって星が飛んでいるかのようにチカチカとした。
遅れるようにして、口の中に錆びた鉄のような味が広がってくる。
「おい、やべえよ」
誰かの声が聞こえる。しかし、その声は自分が水中の中にいるかのように遠く聞こえていた。
暗転――――。
目を開けると、青空が見えた。
「あ、起きた」
誰かの声が聞こえる。女の声だ。
その声の主を見つけようと、首を起こそうして首に鈍い痛みを覚えた。
ここは、どこだ。
ぼんやりとしながら、辺りを見回す。
錆びてペンキの剥げ落ちた鉄柵とコンクリートの床。少し離れたところには貯水槽がある。
ここは、校舎の屋上だ。
「大丈夫?」
女子生徒が近づいてくる。前髪を眉毛の高さで一直線に揃えたロングヘアの女子だった。
その顔に見覚えはなかった。
「なんで、ここにいるんだっけ……」
独り言をつぶやきながら、自分の記憶をたどる。
昼休み――――
おれはいつものように校舎の屋上で昼食を取ろうとしていた。
購買部で買い求めたツナとタマゴのサンドイッチの入ったビニール袋を振り回しながら、階段を駆け登って屋上へやって来たのだ。
そこでちょうど物陰から出てきた生徒とぶつかってしまった。
相手は三年の先輩だった。喧嘩っ早く、不良として地元で有名な先輩だ。
おれは自分の非を認めて謝ろうとした。
その時だった。
先輩の額がおれの鼻っ柱にぶつかってきたのだ。
チョーパン。
なんでそう呼ばれているかという由来は知らないが、そんな風に呼ばれる頭突きだった。
おれはまともにそのチョーパンを食らって、屋上でぶっ倒れたというわけだ。
「これ、使って」
女子生徒は水で濡らしたタオルをおれに差し出してくれた。
濡れたタオルを鼻に当てると、冷たくて気持ちよかった。
「えーと……」
おれは何から質問すればいいのかわからず、口ごもった。
彼女は一体誰なのか。なぜ、ここにいるのか。どうして、おれに優しくしてくれるのか。
様々な疑問がおれの脳裏を駆け巡る。
すると、チャイムが鳴った。
「あ、ヤバい。授業がはじまっちゃう」
おれは慌てて立ち上がろうとしたが、彼女はそれを押し止めるようにしておれをその場に座らせた。
なんだよ、なんで止めるんだよ。やめてくれよ。このままだと、おれは単位を落としちゃうんだ。ここで単位を落としたら、父親から大目玉を喰らうことは間違いなしなんだ。
「あれは、終わりのチャイムだから」
「え?」
「授業終わり。もう放課後だよ」
「え? ええーっ!」
※ ※ ※ ※
「これがお父さんとお母さんの馴れ初めだよ」
「え? ええーっ!」
なれそめとなにそれは似ているようで違う 大隅 スミヲ @smee
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