第5話 乃地日とお鐘

 速登が取り出した『光の剣』を見た男の顔色が変わった。

「それは『光の剣』ではないか」

「僕は斗南となん速登はやと。今夜と同じ月食の晩、ずっと先の時代の祖谷いやから来ました。これは我が家に伝わっていたものです」

 速登が説明する。鐘子が話を継いだ。

「うちは山乃端やまのは鐘子しょうこ。お寺の鐘の子どもで『しょうこ』と読むんよ」

 鐘子の自己紹介に反応したのは若い女だった。

「へえ。うちの名前もお寺の鐘の『おかね』なんよ。この人は乃地日のちひさん」

「お鐘が名付けてくれた。我らはあの道の先の祠に行くところだ」

 乃地日はかずら橋の先に延びる分かれ道を指す。

「僕たちもご一緒させてください」

 速登の言葉に乃地日はうなずいた。


 道の先には丸い塚があり、三波石さんばせきでできた小さな祠が建っている。四人は塚の後ろに隠れた。

「お鐘さん、『鎮めの舞』って知っとるかね。うちの家に昔から伝わっとる踊りなんや」

 鐘子が尋ねる。

「お盆に舞う舞のことかいな。去年かずら橋の前で舞の稽古をしてたら、星が落ちてきたん。そこから出てきたのが乃地日さんなんよ」

 お鐘は乃地日を見る。乃地日は空を指さしながら説明した。

「我らの乗った母船が動かなくなり、船でこの星に降りるしかなかったのだ」

 速登がしみじみとつぶやく。

「乃地日さんは、あの夜空のはるか向こうから来たんですね」

「お鐘は傷ついた我を介抱してくれた。里の人たちも壊れた船を祠の下に隠してくれた。我のふるさとの星に戻れぬのなら、ここでお鐘とともに暮らそうと思っていた」

 乃地日はお鐘を抱き寄せる。

「うちのお腹には乃地日さんの子がおるんよ」

 自分の腹を触るお鐘を見ながら鐘子が言った。

「祖谷は平家の落人をかくまった隠れ里やもんな。昔から困っとる人に優しいんや」

「しかし、『光の剣』を通して、星の仲間が迎えに来ると知らせが入った。このままではお鐘と別れなければいけない」

「僕らに何かできることはありませんか」

 速登が乃地日に呼びかける。

「我らが逃げられるよう、囮になってくれないか」

「斗南さん、うちは二人の味方になってあげたいけど、未来に帰れるかも分からないし、どないしよう」

 速登は空を見上げながら鐘子に言った。

「僕らが呼ばれたのが月食のせいだとしたら、月食が終わる時が帰るチャンスだと思う。時間稼ぎを兼ねて、かずら橋の前で『鎮めの舞』を踊ってもらえないかな」

「分かりました」

 鐘子は改まって速登に答えた。

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