第6話 星の船
「そろそろ皆既月食が終わりそうだな」
速登の言葉を聞きながら、鐘子は扇子を取り出した。
「折角やし、かずら橋の上で踊ろうかな」
「さすがに危ないよ。僕が『光の剣』を出すから、橋のたもとで踊ってほしいんだ」
速登が鐘子を制する。
「うん。二人が山の小屋に逃げるまでの時間稼ぎやしな」
鐘子は改めてかずら橋の前に立つと、『鎮めの舞』を踊り始めた。速登がそばで「光の剣」を掲げている。
その時、満月の隣で一筋の光が流れた。光はまっすぐにかずら橋へと落ちてくる。
『月そくの夜 かずら橋 ゆらゆら揺れたら 星落ちた』
鐘子の脳裏に、古文書の文章が浮かんだ。
光はかずら橋の上で消え、丸い物体がバウンドするように浮かんだ。そのまま二人の前に着地する。カプセルのような球の前面が開き、緑色の肌に黒い服を着た男性らしき人影が三人現れた。
(ノチィヒ星の仲間よ、迎えに来たぞ)
テレパシーだろうか、鐘子の脳裏に声が聞こえてくる。その声の調子が不意に変わった。
(現地人が何故『光の剣』を持っている? もしや仲間から奪ったのか)
「違う、誤解だ!」
速登が声を上げるが、宇宙人、いやノチィヒ星人は右手を伸ばした。その手に『光の剣』が握られている。
(あの二人から少しでも引き離さないと)
とっさに鐘子はかずら橋へと走り出した。
「危ない!」
速登は叫びながらかずら橋の前に立ち、ノチィヒ星人の気を引こうとするが、「光の剣」から緑色の光が放たれた。光はかずら橋に当たり、橋桁が切り裂かれる。
「ああっ!」
橋桁の隙間から落ちかけた鐘子に、「光の剣」を持った速登が駆け寄った。鐘子を引き上げようとするが、かずら橋は大きく揺れ続け、鐘子の体を支えるのがやっとだ。速登の手に捕まろうとした拍子に、扇子が川に落ちたが、それどころではない。
その時、山の方向からもう一つの光が飛来し、かずら橋の手前に降り立った。カプセルの前面が壊れており、
「待ってくれ。その人は味方だ」
乃地日は「光の剣」を掲げてノチィヒ星人に呼びかける。
(我はお鐘とこの星に残りたい。他の仲間を迎えに行ってくれないか)
(それは許されない。一緒に帰るのだ。さもなくば)
ノチィヒ星人の持つ「光の剣」から再び光が放たれた。光は乃地日とお鐘の乗る「星の船」に当たり、大きな爆発が起きた。爆風がかずら橋を大きく揺らす。その瞬間、鐘子はかずら橋を通して、赤銅色の満月に光が戻るのを見た。
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