第2話 古文書と謎の物体
『民宿
「鮎の塩焼きに
「ありがとうございます。いただきます」
速登は手を合わせると早速鮎の塩焼きに箸を付ける。隣のテーブルで夕食をとっていた
『今夜22時02分から23時49分まで、20世紀最長時間の皆既月食が起こります。既に各地の観測ポイントでは、大勢の天文ファンが待機しております』
「月がよく見える南向きの部屋をお取りしましたので、
貴星は速登に話しかけるが、速登は箸を置くと答えた。
「すみませんが、その時間に案内していただきたいところがあるんです」
「手紙に書いてあった件かね」
「はい、午後9時から時間をいただいても大丈夫でしょうか」
傍らのリュックサックに手をかけた速登を見て鐘子は思った。
(ずっと持っとるけん、よほど大事なもんなんかな)
「ああ。鐘子も着替えて一緒に話を聞きなさい」
貴星に呼びかけられ、鐘子は時計を見た。午後7時15分を指している。
(早く食べて、お風呂に入らんと)
午後9時を回った食堂には、風呂に入ってきた速登と貴星、浴衣に着替えた鐘子が向かい合って座っている。テレビも消され、厨房から
「実は家に伝わる古文書について調べていて、どうやら祖谷のかずら橋について書かれていることが分かったんです」
速登はリュックサックから和綴じの冊子と、桐の細長い箱を取り出した。
「僕の実家は骨董品屋なのですが、父方の先祖は修験者として各地を回っていました。祖谷でこの冊子と箱を手に入れたそうです」
速登はそっと冊子を開いた。かずら橋とおぼしき吊り橋の上に、丸い物体が降ってくる様子が筆で描かれており、絵の脇には崩し字で文が書かれている。
「なんて書いてあるん」
鐘子の問いに速登は文章を指さしながら答える。
「『月そくの夜 かずら橋 ゆらゆら揺れたら 星落ちた』。『月そく』というのは月食のことだと思われます」
「なるほど、言い伝えと同じだ。これはうちの祠に供えられている本の複製だろう」
貴星が腕組みしてうなずく。速登は次のページをめくった。光り輝く丸い物体の前で、着物姿の女性が扇を広げて舞っている絵と文章が描かれている。
「
速登は桐の箱を開く。中には漆黒の細長い塊が入っていた。
「これは『光の剣』の変化した姿だと思います。僕がこの箱を祠に供えるので、その前でお嬢さんに踊っていただけませんか」
速登の頼みを貴星は快く受け入れた。
「お話は分かりました。午後10時前に祠へご案内します」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
速登の声を聞きながら鐘子は、なぜか胸の動悸が高まるのを感じていた。
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