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それが、一番幸せを感じた時よ」、とジーナが言った。「ちゃんと、あなたの質問の答えになったかしら」
「見事にね」とわたしは答えた。
「思い出」というのは、「思い」のほうからやってくるものなのだわ。思いが湧き出てくるから「思い出」。なるほどねぇ、とわたしは首を伸ばした。
嵐がようやく止んだけれど、この書斎の窓から見える景色は、まだイギリスの風景画のようにじんわりと濃く暗い。ここは北カリフォルニアだから、こんなことはめったにない。
強風にも葉を落とすことがなかったオークの枝は両手をあげるように灰色の天に向かい、いつもなら見えるはずのデアブロの山は、まるでこの世から消えたかのように、影さえ見えない。
一年の大半が青空で、先週まではサングラスなしでは運転ができなかった。ところが五十年ぶりという十月の嵐がやってきて、これまでたまっていたストレスを発散するかのように大暴れし、水不足の土地に大量の雨をくれたのはありがたかったが、そこら中に被害ももたらしたのだった。
わたしは机の上に重ねたあった本の中から無意識に一冊を抜き取り、ページを一枚二枚とめくった。
おお、ここに、また業平の歌、
「今までに忘れぬ人は世にあらじ おのがさまざまな年の経ぬれば」
あなたもさまざまな年月を経て生きてきて、わたしのことなど覚えてはいないでしょう。でも、わたしは覚えています。
「ほら、その和歌を見てごらん」と誰かが教えてくれているようで、わたしは思わず周囲を見回した。チチチチという声がして、雨の前に姿を消した子鳥達がドライブウェイに降りてきた。もう嵐はすっかり止んだようだ。
完
ケニアの白い砂 九月ソナタ @sepstar
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