第一回さいかわ葉月賞特選、スミヲ賞
大隅 スミヲ
講評
今回の葉月賞応募作品の中で私が選ばさせていただいたのは亜咲さんの「赤い烏」でした。
テーマは「夏」ということで、どんな夏を書いてくるのかということを楽しみに作品を拝読させていただきましたが、物語の舞台は、まさかの三国志。しかも、主人公は陸遜。
三国志は知る人ぞ知る中国歴史の中でも人気のある物語ではありますが、その三国志の中で陸遜という呉の知将を主人公に抜擢するというこのセンスに、私は正直脱帽しました。
三国志を知っている人ならば、陸遜のことを知っている可能性は高いかもしれませんが、この物語は陸遜の晩年を描いています。三国志を読んだことのある人の中でも、かなりマニアックな人(褒め言葉)じゃないと知ることのない物語です。
なぜ、そこを選んだのか。そして、テーマである「夏」とどう繋げていくんだ。タイトルにもなっている「赤い烏」とは一体何なのか。陸遜は何を見たのか。
気づいたら、私は物語の虜になっていました。
この「赤い烏」は、三国志好きを唸らせる作品であることは間違いありませんが、それ以上に陸遜という人物の怒りの表現というのが非常に素晴らしかったと思います。怒りを「夏」として表す。これはさすがに誰も思いつくことのできなかった表現ではないでしょうか。
4,718文字の物語に込められた陸遜という男の怒り。
物語の終盤に出てくる
『汗が出る。暑い。熱い。
俺は今、憤っている、そうだ、憤っている。
汗、暑さ、熱さ、俺の喜び、今は夏か、いや、春だ、春二月だ、赤烏八年の春二月。
いや、違う、夏だ。俺にとっては夏なのだ。俺は今、憤っている、汗をかいている、暑い、熱い、暑い、熱い、暑い、熱い、暑い、熱い!』
という言葉。まさに陸遜の憤怒。この物語は陸遜という男の怒りによって描かれているのだと知ることが出来ます。この怒りの表現、それを夏とする表現。私はこの表現にやられました。
正直、かなり早い段階でこの作品が「スミヲ賞」の候補作だと思いました。
そのくらい私はこの作品が好きです。
私の独断と偏見で選ばせていただいた「スミヲ賞」ですが、私の作品に対する想いが伝わってくれればと思います。素晴らしい作品を読ませていただき、ありがとうございました。
第一回さいかわ葉月賞特選、スミヲ賞 大隅 スミヲ @smee
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