第二王子と皇帝の娘

ななまる

皇帝の娘、アレクシア・オヴォラ

「病気ですって」

「まだ小さいのに病気で寝たきりなんて」

「なんて可哀想なこと…」

なんてことを言われ始めて早11年。

私アレクシア・オヴォラ、今日も元気に魔法の練習に励んでいます。


アレクシアが噂の的にされ始めたのは、皇后である母が亡くなったすぐの頃。まだ齢4のときの頃である。


母の葬式では沢山の人が集まり、その中にはアレクシアが産まれる前に母の側近であった執事も参加していた。

アレクシアが生まれてから海外に行っていたようで、久しぶりに帰ってきた彼は黒髪から金髪になっていたそうだ。


そしてちょうどその頃、父の中でアレクシアの髪について疑問が生まれ始めていたのだという。


アレクシアの髪は父にも母にも見られなかった綺麗な金髪である。母は先祖様に金髪の方がいたからと言っていたようだが、母が亡くなり金髪の執事をみた途端に父は狂ったようにアレクシアを嫌うようになった。

耐え兼ねた父はアレクシアの姓を変え離宮に住まわせた。そしてしまいには娘が病気で篭っていると世間に公表したのだ。


(父上は私と関わりたくないんだろうな)


それくらいは幼いながらにして察することが出来た。


そんな良いとは言えない幼少期を過ごしたアレクシアであるが、父と母が残してくれていたものがあった。それが魔力である。

この帝国では魔力が高いほど高い爵位が与えられる。当然、この国で1番魔力が高い皇帝の子供に生まれたアレクシアはそれなりに強い魔力が生まれながらに備わっていた。皇后である母も公爵家の出であり、父に負けず劣らずの魔法を持っていたのである。


(でも、これだけじゃ足りない。)


国で一番強力な魔法がのっている本ですらマスターした上に、まだ新たな魔法を欲しているアレクシアを見て、メイドたちは恐ろしいものでも見たかのような顔をする。本人は、自分の魔法が不十分だと思っているし、毎日毎日新しい魔法を生み出そうと練習に励んでは生み出せないことを悔やんでいる。


「私がおかしいのかしら…」


ボソボソと呟きながらまだ未習得の魔法を試してみる。風に治癒の能力を混ぜ、その風邪を吸うだけで体内の器官病気を治していくものだ。

攻撃魔法や物理魔法が得意だったアレクシアはは、治癒魔法があまり得意ではなかった。一通り魔術書の治癒魔法は完璧にしてはいるが、そこから派生した魔法を一向に作ることが出来ないのである。応用ができないのであればまだまだ魔法を熟知したとは言えない。


「はぁぁあ」


大きなため息をついて木に持たれるように座る。今日も何も進展はなかった。ここ半年くらい、新しい魔法の開発ができてないのだ。そんな事実から目を背けるべく勢い良く立ち上がり離宮に踵を返した。


(今日も魔法を練習しているうちに朝になっちゃったわ…。)


こんなことは、彼女にしてみれば日常茶飯事である。離宮に戻ると練習着を脱ぎ、今度は学園の制服に着替える。


彼女を離宮に押しやった父でもやはり情というのはあるようで、爵位が高い貴族が集まっていることで有名なアーティ学園に通わせて貰えることになった。質の高い魔法が学べると聞く、名門校だ。今日はアーティ学園の1年生として入学式に出ることになっている。こんな大切な日でさえ魔法に打ち込み寝る間も惜しむアレクシアを見て、メイドは少し困ったような顔をする。


(でもしかたない、私には魔法しか取り柄が無いのだから。)


「お嬢様、馬車の準備が整いました。」

「ええ、わかった。すぐに向かうわね」


(なんやかんやメイドも馬車も私に残してくれた父は優しいところがあるかもしれないと考えることもある。…けど、この11年私に姿を見せない時点でもう答えは出ているのよ)


無駄な考えは捨て、馬車に乗り込むと馬車はアーティ学園の方向へと動き出した。


アーティ学園に到着すると早足に広場へ向かった。

入学式は10時からなので、まだ余裕がある。何をそんなに早足に歩いているのかと言うと、広場にある魔法場を探していたのだ。暫く歩き回っていると、魔法場らしきものが目に入った。


(魔法で有名な名門校なだけあるわね、魔法場が大きくてしっかりしている)


そんなことに感心しながら扉を開けようとしたが、引いても引いても一向に空く気配がしない。

入学式の日から魔法場の使用は可能となっていたはずだし、開かないことは無いだろうと何度も試みる。引いてみたり、押してみたり。それでもやはり空かないのである。

うーん、と唸っている彼女の肩にぽんと手が置かれる。慌てて振り返るとそこにいたのはアーティ学園の制服を着た男子生徒。


(金髪で…黄色のブローチをつけてる…ということは…)


黄色のブローチは上から2番目に属する王族を示す。この帝国に王族は本来存在しないが、何よりアーティ学園は魔法の名門校である。

隣国である王国から入学する生徒も少なくないため、王族用のブローチも用意されているのだ。

ちなみに、1番上である皇族は赤色のブローチを付けることになっているが、今年の入学生では皇族が居ない。

いや、ここに1人アレクシアという名の皇族がいるが父の裏の手回しで彼女は男爵の娘として入学することになっている。男爵はアーティ学園の中で1番下の位に属し、緑色のブローチを身につける。

つまり、黄色のブローチを付けたこの男子生徒は王族にあたる。そして今年入学する王族の男子生徒は1人…。

チラッと顔を見るとその生徒はアレクシアが思った通りの人物であった。


「お初お目にかかります、セヴラン王子」


帝国に並ぶ魔法の列強。

アスティラス王国の第二王子である。

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