48話 最下層へ

7月9日土曜日。今日は研究者さんとお話する日だ。


バイトをしていない大学生の俺は基本的に暇だが、向こうは忙しい人のようで、初めて妹さんに話をもらってからずいぶんと時間が空いてしまった。


場所は前に特研の東畳さんと話した隠し部屋だ。ただし、あの時から場所を2階層に移した。1階層には練習場ができて予約のない時間帯でも人が来るようになったからな。


ダンジョンに行ってしれっと2階層に進んで部屋に入る。念の為カメラをセットした。


あとは……



「ステータス」



ダンジョンマスターとして会うんだから、ステータスの改竄をしないと。東畳さんの時は完全に忘れてたけど、もし鑑定スキルとかでステータスを見られてたら普通に本名がバレるところだった。



「個体名の若島蒼斗を町田真に"改竄"。称号の初級ダンジョンを風魔法使いに"改竄"。レベルの38を11に改竄……」



自分の名前を10秒で考えた偽名にして、称号もレベルも他のステータスも初心者探索者レベルの数値に合わせる。スキルは初心者探索者がよく取ってる回避を出して、ダンジョンポイントやレベルアップまでの経験値が書かれていたところは所持スキルポイントに変更した。


これでいんじゃないだろうか。



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個体名:町田真

種 族:人類

称 号:風魔法使い

レベル:11

魔力値:330

体力値:190

防 御:130

素早さ:110

器用さ:250

スキル:初級風魔法

    回避


所持スキルポイント

残り:10


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いかにも人類らしいステータスにできた気がする。


幽影ゆうえい雑面ぞうめんを被って顔を隠して、もうあとは研究者さんを待つだけ。今回は最初の部屋じゃなくて2階層に14時半集合だ。


ちなみに俺は13時より少し前にダンジョンに着いていたが、今何時だかわからない。


ダンジョンの中ではスマホは電源がそもそも付かないし普通の時計も止まってて使えないから困る。


他の探索者は大体回復アイテムが尽きるか、ドロップアイテムで荷物がいっぱいになったら帰るパターンが多い。ダンジョン内で集合なんかしないからそのやり方で十分なんだろう。


じゃあやろうと思えばずっと練習場にいられる探索者たちはどうしているのかというと、どうやらスライムのリポップ間隔でなんとなく時間を測っているようだった。


あれは倒されてからピッタリ1時間後に沸くよう設定されてるし、だいたい湧いて1分も経たないうちに倒されるから時間を測るのにちょうどいいみたいだ。それでもなんとなくでしかなく、正確な時間を知りたければ外に出て確認していた。


1階層だからすぐ行き来できるしな。


とはいえ前の配信で時計欲しがるコメントなかったのが不思議だ。時計というアイテムがないとでも思ってるのだろうか。それともダンジョンでは時間に縛られたくないみたいな理由だろうか。


なんにせよ、前回は初めてだったから時間が分からなくても待てたけど、流石に今回もいつ来るかわからない状況で待ち続けるのはだるい。


ショップに時計あるかなぁ……いや、あったけど1番安いので1万ポイントもするんだ。追尾式映像記録機と同じポイントじゃん。ま、いっか。購入しよう。


購入したいのは置き時計なので、別に手元に出してもいいが、今の場所はダンジョン内だから配置することができる。


手元に出して手で適当な場所に置いた場合は、誰でもそれを動かせるし持ち帰れる状況になるが、画面を通して配置すると、ダンジョンマスター以外は1mmも動かせなくなるという違いがあるんだよね。


質問したらAIがそう言ってた。


取られたくないわけじゃないけど配置でいいか。ということで、購入した置き時計はテーブルの上に配置した。この置き時計の動力源はやっぱり魔石だそうで、動力部分のパーツがある分、置き時計にしては大きい。


まぁ時間がわかればなんでもいい。


今の時間は13時17分らしい。あと1時間以上も待たないといけないのか。


だったら最下層のコアがある部屋に行ってこようかな。


ダンジョンで何かあった時に空間転移の水晶を使って転移する事になるだろうけど、空間転移の水晶は1度行ったことのある場所にしかいけない。だからコア部屋にはいずれ行かなきゃいけないと思ってた。


魔法陣引いて一気にコア部屋の一個前の階層に行くのもできるが、今回は時間が余って暇だから普通に行こう。


ステータスを改竄したとこによって減った魔力を回復薬で全開にさせて、隠遁者スキルを使って自分の姿を隠す。


あとはもう行くだけだ。


7階層まではあの女が来た時に1度行っていたから、スムーズに進め、たぶん10分もかからなかったと思う。


そこから20階層までは初めて行く階層だけど、なにしろ画面を開けば答えがわかるから躓くことはない。

順調に進んで、11階層では時間短縮のためにウィザーディアの背中に乗っけてもらった。12階層は本体が燃えてるモンスターしかいないから仕方なしに自分で進んで、13階層もスライムと蛇じゃ乗ることができないから水に濡れながらも自分で進んで、14階層はロックバードに出口まで運んでもらった。


15階層はサクッと倒してさっさと先に進み、ゾンビの見た目にわーきゃー言いながら探索している人たちを横目に17階層を抜け、探索者の未達階層までたどり着いたから隠遁者のスキルの効果をきった。ずっとつけてるとじわじわと魔力減っていっちゃうからね。


19階層は偽ルートをあえて行って、20階層は少女レイスの方を倒した。いや、だってポイント的にそっちの方がお得だし、レイスの方が倒しやすいし……可哀想な少女っていうのはあくまでも設定だしな。


ダンジョンマスターでも引っかかる罠が敷き詰められている21階層は流石に進むの大変だった。あの女に破壊され尽くされてからさらに凶悪な罠にしたことを若干後悔するくらいに面倒だった。


1番時間をかけながら慎重に進んで22階層。久々にコカトリスと対面した。さっき倒したレイスから出た魔石をあげて、先に進む。


23階層はマメカラスたちに向こう側に運んでもらって、ようやくコアがある部屋に辿り着いた。


まるで神殿みたいな雰囲気の白くて明るい部屋だ。真ん中の台座の上には紅色の石が置かれている。石の大きさは1mほどだろうか。


カメラ越しには何回か見ていたものの、こうして目の前に来ると圧倒されるものがある。


これが、この紅色の大きい石が俺の命と同等のモノなのだ。


試しに触ってみるも、少しひんやりしているくらいで何も起こらない。まぁ、起こるわけがないか。てか触った程度で何かあったら困る。


とにかく、これでコア部屋にくるという俺の目的は達成された。


カメラを使って隠し部屋の時計を見ると、今は14時11分。思ってたよりここまで来るのに時間を使ったな。


絶対21階層の所為だと思う。今から逆走して2階層に行くには時間が足りなさすぎるので、町田のダンジョンマスターのみが使えるという条件の魔法陣を隠し部屋と22階層に設置して、一瞬で部屋に戻った。


魔法陣は設定でそもそもダンジョンマスターにしか見えないようにしている。消してもよかったけど、消したところで1度使ったポイントは戻ってこないから、だったら置きっぱなしの方がマシかなって。


それから部屋で待つことおおよそ10分。



『該当の人物からの侵攻を確認しました』



事前に外見の情報を聞いていたので、それをAIに伝えて来たら通知するようにお願いしてたんだよな。


最初の部屋を見ると黒髪のセミロングにずいぶんとラフな格好した女性がいた。わかりやすいように白衣を羽織っていくと聞いていたが、本当に白衣も着ている。


ダンジョンには合わなさすぎる雰囲気だ。


とにかくこの人が研究者さんで間違いないだろう。隠し部屋の前で待機しておこうか。

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宣誓!人類の味方となるダンジョンにする事を誓います! 天沢与一 @amayo_39

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