とある大きな館。そこでは父親と少女、それから使用人達で暮らしていました。しかし、新しく夫人が来ると、少女は邪魔だからだと小さな離れに追いやられ、ひとりぼっちで過ごすようになりました。
みんな夫人の言いなりで、誰も少女を助けてくれません。そんなある日、とある使用人が少女に誕生日プレゼントとして、何かを渡してきました。それは、ぼろぼろの袋に入った小さなタネでした。
少女はそれがただの要らないものを押し付けられただけだとわかっていましたが、誰かから何かをもらうのは久しぶりだったので、嬉しくてそのタネを大切に育てることにしました。
少女は毎日、水をやり、話しかけながらタネを見守りました。そしてついに、タネから美しい赤い花が咲きました。毎日愛情を込めて育てた花です。美しい花を見ているだけで1日を過ごせました。
けれど、花はいつか枯れてしまうもの。それが嫌だった少女は、枯れる前に花を摘み取り、押し花にして、常に肌身離さず持ち歩きました。自分のたからものを誰にも渡したくなかったからです。
ところが、本館で事件が起きました。新しい夫人が、大事なルビーの宝石を盗まれたと大騒ぎをし始めたのです。夫人は屋敷中の人々を問い詰め、誰が盗んだのかを必死に探しました。
そんな中、ある使用人が「少女が赤いものを大切に持っているのを見ました」と言いました。夫人は、それが自分のルビーだと思い込みました。
「あの少女が盗んだに違いない!」
夫人はそう言い、離れに駆け込みます。
「宝物を出しなさい!それは私のものだ!」
少女の腕を掴みながら、夫人は怖い顔で捲し立てます。
けれども、少女は泣きながら首を振りました。
「これは私のたからものです。誰にも渡せません。」
夫人は怒り狂い、少女をさらに問い詰めましたが、少女は自分のたからものを手放しませんでした。そして、怒りに任せた夫人は、ついに少女を殺してしまいました。
少女の亡骸を探してみても、出てきたのはただの押し花だけ。ルビーは見つかりません。騙されたと思った夫人は使えない証言をした使用人をその場で殺してしまいました。しかし、それでもルビーは見つかりません。
別の使用人を問い詰めました。答えてくれなかったので、夫人はその使用人を殺しました。それでもルビーは見つかりません。
館のコックを問い詰めました。答えてくれなかったので、夫人はその使用人を殺しました。それでもルビーは見つかりません。
そうして、夫人は屋敷中の人々を次々に殺し続け、ルビーが見つかるまで誰も逃がさないと言い張りました。最後には誰もいなくなり、館は静かに廃れてしまいました。遠い昔のことですが、今でもその館では夫人がルビーを探し続け彷徨っているといいます。
おしまい。