公園

しぇもんご

Digital detox

 ボロいベンチだ。木が朽ちて、柔らかくなって、カビだかなんだかわからない黒ずみが一面にあって、それでもちゃんと座れるのだから大したものだ。それにこのベンチの上には屋根がある。パラソルみたいな、これの名前はわからないけれど、真ん中に一本、木の柱があって、それが小さめの四角い木の屋根を支えている。朝の、こんなに早い時間だけど、日はそれなりに高いから、屋根があるのはありがたい。

 いい公園なのだろう。中央の滑り台は古そうだけど、でも階段だけじゃなくて、ハシゴとか網がついていて、いろんな方法で登れるようになっている。それに滑るところが二本もついている。まわりには、馬と虎とパンダと、あと貘の、背中に乗る遊具があって、下にバネが見えているから、あれらはきっと前後に揺れるのだろう。

 目の前の柱を、もうパラソルと呼ぶけれども、その柱を蜘蛛が登っている。茶色い木の表面を小さな茶色い蜘蛛が歩いていて、でも蜘蛛と柱の色は違うのだから、茶色にもいろいろあるわけだ。ハエトリグモだろうか。きっともっとちゃんとした名前があるのだろう。

 虎とパンダの間を鳥が歩いている。やけに姿勢のいい鳥だ。黒いけどカラスより小さいし、それにカラスより背筋が伸びている。偉い先生のような鳥だけど、名前がわからない。名前もわからない鳥が、あんなにも堂々と歩いているものなのだな。

 蜘蛛が歩くのをやめてしまった。俺がここにいるせいで動かないのだとしたら、申し訳ないことをした。

 なんで貘にしたのだろうか。馬と虎とパンダの横に、どうして貘を並べようと思ったのか、わからない。

 暑いな。ジーという蝉の声が、公園を囲むたくさんの木から、ずっと聞こえている。でも八月に聞こえる蝉の鳴き声よりももっと単調で遠慮がちだから、もしかしたら蝉じゃないのかもしれない。

 目の前の地面に虻が飛んできた。翅を擦り合わせながら、八の字を描くように砂地を歩いている。なにをしているのかわからないけれど、たかたかと、随分誇らしげに翅を震わすものだ。

 ゾウやライオンや、あとは羊なんかでは駄目だったのだろうか。

 蚊みたいな、だけど蚊よりもっと頼りなくて、目的もなさそうな羽虫が目の前を漂っている。いよいよこの虫の名前はわかりそうにないな。それに地面を歩いているこいつも、虻かどうかあやしいものだ。

 虫だらけだな。でも蜘蛛がいつのまにかいなくなっている。どうして貘にしようと思ったのか、考えてみたけど、わからなかった。

 だけど貘は、なんかいいな。写真を一枚撮って帰りたいけれど、携帯がないな。

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公園 しぇもんご @shemoshemo1118

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