私立底辺ババア女子校2

 さて、休日出勤である。

 それだけでも大分憂鬱だが、集まったメンバーが妖怪しかいない。

 詳しくは前回を読んでいただきたいのだが、


 姑係長…イビリ大好きババア

 お節介…アネゴ気取りの過干渉ババア

 金魚糞…お節介の腰巾着ババア

 メガネザル…メガネババア

 オトナシ…卑屈繊細オバサン

 私…イカれサブカルババア


 とでも覚えてくれたら良いと思う。

 ババアがゲシュタルト崩壊しているが、気にしてはいけない。


 本日の業務は、DMの袋詰め。

 顧客に送るDMを封筒に詰め、名簿と照らし合わせて指定時間までに郵便局へ持って行く。

 単純な作業ではあるのだが、漏れの無いようにしなければならないので、2人1組で確認しながら行うのが良いとされる。

 おわかりいただけただろうか。

 恐怖の「はーい、2人組作ってー」の時間である。

 結局、


 姑係長&メガネザル

 お節介&金魚糞

 オトナシ&私


 で、仕事を進めることになった。

 大体予想は付いていた。と、いうか、知っていた。

 業に入っては業に従えと言うが、周囲が妖怪ばかりならば自分も妖怪のフリをしなければならない。

 馴染めない日陰者は、日陰者同士でつるむしか無いのである。


 まるで女子中学生に戻ったかの如く、キャイキャイと談笑しながら作業を進める妖怪ババア連合。

 酷い話だが、誰もオトナシさんに「一緒にやろう」とは声を掛けていないのである。

 オトナシさんは仕事ができないのだから、本来は私のようなイカレポンチではなく、仕事のできる姑係長かお節介が組むべきなのに…。

 ため息をついて、仕方なく私と仕事を進めるオトナシさん。

 本来休日で、客も取引先も来ないとわかっているからウケ狙いのTシャツ(キューブリック監督の時計仕掛けのオレンジ。ヴィンテージもの)を着てきたのに、誰も突っ込んでくれなくて悲しみに暮れる私。

 隣の部署の人が着ていた、『業務スーパー』ならぬ『業務オーバー』のTシャツはウケていたのに…。

 とりあえず自分も作業を進めようとしたところ、疑問点が浮かび上がった。

 DMを入れる封筒には糊が付いている。

 一旦貼り付けてしまうと、剥がせない。

 無理に剥がすと破れたり皺になったりするから、中身を確認するなら封をする前だ。

「どのタイミングで封しますか?」

 一応年下なので、オトナシさんの意見を聞いてみた。

「全部詰め終わってからの方が…」

 小心者はリスクを下げたがる。

「でも、名簿はこんなにあるんですよ。その都度の方が、効率良いですよ」

 私は姑係長に渡された名簿の束を見せた。

 クソ田舎なのに、こんなに送って何になる。大半がゴミ箱直行だ。

「名簿1枚終わるごとに確認して、その都度封したら?」

 お節介が、待ってましたとばかりに口を挟んだ。

 こいつは、先に仕事の進め方について聞いた時、「オトナシさんと話しながら決めて」と、突き放して来たばかりである。

 じゃあ、お前がオトナシさんの面倒みてやれよ。仕事にやる気皆無の私と仕事のできないオトナシさんが組んだら、滞るのはわかりきっていただろうが。

 ていうか、こういう指示を出すのは姑係長、おめーの仕事だろうが!!

 しかし、腹のたつことにアドバイスそのものは的確だ。

 名簿は1枚につき、20人程の名前が載っている。もっと小さく印刷すれば紙の節約になるのだが、老眼が多いのだ。

「じゃ、1枚終わったら、片方が名簿読み上げて、もう片方が封筒に入れたものを確認して。オッケー、ってなったら、封しちゃいましょう」

 とりあえず、方向性は定まった。

 DMの山を2つに分け、後は黙々と詰めていく。お互い名簿1枚分の封詰めが終わったら相手に声を掛け、確認して糊付けという流れになった。

 しかし、まあ。

 私は、手を動かしながら自分の中学生時代を思い出した。

 孤独だったなあ。

 いつも本ばっかり読んで、妄想の世界に浸って、友達なんか片手で数えるしか居なかった。

 てか、私があんまりにも空気読めないからって、ホームルームで「酒呑みさん(未成年のうちは呑んでいません)と友達だって言う人、手をあげてー」とか言った担任、クソカスじゃねーか。案の定1人しか手を挙げなかったら、「ほら、酒呑みさんは協調性ないから」って勝ち誇ったあの股ぐらの臭いそうな女教師、今頃前歯が全滅していればいいのに。あ、「いればいい」と「入れ歯」が掛かったな。整いました…。

「酒呑みさん、名簿確認お願いします」

「あ、はい」

 仕事を進めながら考える。

 中学校の教室も、思えばこんな感じだった。

 不細工で太っていて、痩せても決して美人にはなれないけれど、声だけは大きいから何となく一目置かれていた女子。

 その取り巻きというか信者というか、いつもベッタリだった同じくらい不細工な女子集団。

 「私たちは無敵」、そんなオーラを全面に出しながら、私のような変人やオトナシさんのような大人しい人を小馬鹿にして威張り腐っていたっけ。

 友達ヅラしてフレンドリーに接してくるけど、二言目には「でも、それは酒呑みも悪くない?」「悪いところは直さなきゃ!」みたいに前向きに説教かますから、ウザくって仕方なかったな。

 もう名前も忘れちゃったけど、あいつらも今頃、姑係長やお節介みたいなクソババアになり下がっているんだろうな。

 姑係長やお節介の仲間になれず(なる必要もないのだが)、教室のすみっこにちょこんと座っていた大人しい女子生徒。

 何故か派手なギャル女達(美人というわけではない)は声のでかいブスの群れと仲が良く、今思えば珍獣として面白がっていただけなのだろうが、その事実が大人しい女子たちを更に萎縮させていた。

 彼女らは大人しい女子にも、完全にイカれたサブカル馬鹿にも興味を示さない。

 結局、日陰者同士がつるんだ結果、自己評価が異様に低い卑屈女&他人の目を一切気にしない身勝手変人女という、わけのわからないペアが完成するのである。

 作業しながらの雑談で、オトナシさんが少女漫画好きだということが判明した。

 別段意外でもなかった。

 10代のオトナシさんが少女漫画を読んでいる場面は、すぐに想像できる。

「酒呑みさんは? 少女漫画とか、好きじゃないでしょう?」 

「読みませんね。面白さがわからなくて」

「だろうと思った」

「ホラー漫画ばっかり読んでいました。月刊ホラーMって、知ってます?」

 自分の作業がある程度終わったとき、

「次は? 何かできることはありますか?」

 私なりに、気を利かせたつもりだった。 

 すると、すかさずお節介のババアが、

「まだオトナシさんの封詰め、終わってないじゃない! ペアなんだから手伝ってあげなよ!」

 ここぞとばかりにキーキーと大声を出す。

「オトナシさん可哀想だよ! オトナシさんにばっかりやらせちゃ駄目だよ!」

 うるせえ。

 てめー、さっきオトナシさんの仕事チェックしてアラ探しして、ほんのちょっとしたミスを大袈裟にあげつらって怒鳴り散らしたばっかりじゃねーか。何今更味方ヅラしてんだよ。

 こっちはこっちで、お互いソロプレイの方がやりやすいから最後の確認以外は別々にやることにしたんだっての。

 大体、名簿の順番通りにやらなきゃいけないのに、封詰めの途中で私が下手に手を出したら順番が崩れて余計面倒なことになる。

 だから、確認はもちろん2人でやるとして、オトナシさんの分の封詰めが終わるまでの間に、私は別の仕事を手伝うつもりだったのに。

「ありがとう、でも今はオトナシさんを手伝ってあげて」 

 せめて、このくらいの言い方はできないのか。

 何で自分から仕事をしようとした私が、クソお節介ババアに説教喰らってんの?

 金魚糞は完全にお節介ババアの信者なので、貧相なツラでもっともらしく頷いている。

 姑係長は、仕事のできるお節介ババアを気に入っているから注意すらしない。

 メガネザルは、取り敢えず強そうな方の味方。

「うっざ」

 普通に声に出ていた。

「そんなこと言っちゃ駄目だよ。仕事なんだから」

 慌てて私を止めるオトナシさん。 

 普段いじめられているくせに、何故いじめっ子を庇うのだろう。

「うぜーよ。それぞれのペアでやりやすいようにやれ、って言ったくせに」

 仕方なくオトナシさんを手伝いながらそう言うと、耳ざといお節介がまた突っかかって来た。

「何か言った?」

 こいつは、気に入らない相手にはとことん突っかかる。

 お礼の言葉も謝罪の言葉も、気に食わない人間からだと素直に受け取れずに、「誠意が無い」「私を馬鹿にしている」と、ブツブツ言い続けるアネゴの皮を被った粘着質過干渉ブタ女だ。

 だから、私も謝る気はない。

「独り言でーす」

 録音でもしていない限り、これで大体乗り切れる。

 そもそも悪口で個人名を出していないので、お節介ババアもこれ以上は無駄と悟ったらしい。

「ああ、そう…ちょっと声が大きい気がしたから」

 往生際の悪いブタに腹が立ったので、それ以降はオトナシさん相手に『時計仕掛けのオレンジ』について熱く語ってやった。

 ついでに、『13日の金曜日』についても。

 アレックスの暴力は格好良い! 

 ジェイソン君は可愛い!

 最強の殺人キャラって誰だと思う?

 チャッキー相手ならギリギリ勝てるかな?

 カルト&ホラー最高ー!

 『ヤバイ奴』というレッテルは、時に自らを守る鎧となる。

 休日出勤が終わるまで、妖怪ババア連合が私と口をきくことは無かった。  

 やれやれ。

 今日に限らず、いつもこうだ。

 お節介は金魚糞やメガネザルと楽しそうにお喋りしながら仕事をしているが、オトナシさんに話題を振ることは無い。

 オトナシさんは、お節介たちの笑い声を聞きながら1人でパソコンのキーボードを叩いている。

 私がオトナシさんに話しかけた時、聞こえなかったのか、たまたま返事が遅れたことがあった。

 昼ご飯どうします? のような、他愛のない雑談だから別に良かったのに、

「今、無視したよね?」

 関係無いはずのお節介が、またもやクチバシを突っ込んだ。

 オトナシさんはぎょっとして、突然にゅっと顔を出したお節介を見つめている。

 お前、さっきまで金魚糞と楽しそうに話してたのに…何で私等の間に入って来るの?

「オトナシさん、今酒呑みさんのこと、無視したよね」

 ウザい。

 お前はお前で取り巻きがいるんだから、放って置けば良いのに。

「聞こえなかっただけですよ」

 私がそう言っても、聞く耳を持たない。

「でも、無視したよね?」

「気分は良くないよね?」 


 しつけーー!!!


 別に私だって、オトナシさんと特別仲良くしたいわけじゃない。

 でも、虐めなくても良いじゃないか。

 どうせ虐めるなら、私の方にすればいいじゃないか。

 何故、弱そうな方ばかりに行くんだ?

 イカレポンチサブカルクソババアはやっぱり刺されそうで怖いのか?

 お節介の、こういうところが本当に嫌いだ。

 姑係長の嫁いびりモードは黙認するくせに、日陰者の会話に割って入るのは何故なのか。

 姑係長も、お節介のオトナシさん悪口を笑って聞き流すのは何故なのか。

 と言うか、お節介の悪口三昧は許されて、私のボヤキが許されないのって何なの?

 休日出勤のクソまずい弁当(金は取られる)は、クーラーの弱さと湿度の高さもあって半分しか食べられなかった。

 「美味しい! 美味しい!」と脂っぽい弁当をがっつく姑係長とお節介の姿は豚そのものだったが、少食なオトナシさんが「美味しいね」と言いながら無理矢理完食していたので、私は何も言えなかった。

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泥酔日和 酒呑み @nihonbungaku

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