泥酔日和
酒呑み
性犯罪と男の友情(笑)
過去2回、性犯罪にあったことがある。
こういう話をモテ自慢と捉える醜女ブ男老害連中は流石に絶滅危惧種(誰も危惧していない)となったが、私は決して美女ではない。
良くて中の上である。
冗談はさておき。
1度目は20数年前、中学1年の時だった。
学校からの帰り道に、奴は居たのである。
垢抜けたところは何も無い、短めオカッパ頭にニキビ面の女子中学生だったが、あのような輩はセーラー服を着ている若い女であれば容姿などどうでも良いのだ。
「ティッシュ1枚頂戴」
停車した車の運転席から、ハゲ頭の中年が声をかけてきた。
この時点で警戒すべきだったが、私は当時も今も結構なレベルのバカである。
「はい」
律儀にポケットティッシュを1枚抜いて、車の男に渡そうとした。
「彼氏いるの?」
男が尋ねる。
流石にバカの私でも、「あれ、この人何かおかしいな」と思った。
「拭いて」
運転席の窓が大きく開いた。
絶対にやってはいけないことだが、私は窓にティッシュを持って近付いて…
見てしまった。
ダッシュで逃げたので、余り記憶には残っていない。
ただ、無垢な女子中学生が初めて男性器を目にした感想は、「きたねぇ!」だった。
既にオタクだったので、2次元の男性キャラも好きだったし、ビジュアル系のバンドも好きだったのだが。
(あのイケメンの体にも、あんなに汚い物体がくっついているのか…)
絶望したのを覚えている。
その後、ボーイズラブにハマって腐女子になったので、男性器への嫌悪感は無くなった。
イケメンのチ◯コは美しく、ブサイクなオッサンのチ◯コは汚い。
実際は必ずしもそうとは言えないのだが、とにかくトラウマにはならずに済んだ。
2度目はやはり同じ中学の頃だったが、2年から3年の間に複数回起こった。
2度目なのに複数回というのはおかしいかもしれないが、同一犯なのでまとめて1回と数えておく。
犯人は、同じクラスの男子生徒…『みどりのマキバオー』のチュウ兵衛親分の考えたお名前のうち、ボツになったものを拝借して、金玉クサ男とでもしておこうか。
クサ男は中学生になっても小学生のノリを引きずりがちで、平気でスカート捲りをやらかし、女子生徒の悪口を言い、「女に媚びない俺!」を間違った方向に解釈した可哀想な奴だった。
当然そんなことをしていれば女子には嫌われるし、そろそろ色気づいて来た男子からも距離を置かれる。
いわゆるイケている男子のグループからは相手にされず、大人しいオタクグループからも逃げられたクサ男は、いつも卑屈な笑みを浮かべた腰巾着のチビ男とひたすらつるむようになった。
よほど頭が良くない限り、卒業後は地元の高校に進学する。
中学での悪評は、そのまま高校に引き継がれてしまうのだ。
暗黒の青春を送ることが決定したクサ男だが、それでもスケベには興味津々であった。
だがしかし悲しいかな、クサ男は背が低く、顔もまずく、自業自得の孤立無援状態である。
顔もクソだが性格もクソなクソ男…否、クサ男が出した結論は、「無理矢理女子の体を触る」といった史上最低なものだった。
どうせ触るなら美人を触れ、と痴漢にツッコミを入れる、今だったら物議を醸しそうな4コマ漫画を読んだことがあるが、性犯罪者というものは矮小で、卑怯で、情けなく、およそ度胸や格好良さとは対極の存在である。
美人は周囲の人間全てを敵に回すし、容姿が普通であっても、人気者女子は男女問わず常に人に囲まれている。
ギャルは怖い。
結果白羽の矢が立ったのは、地味なニキビ面で友達も少なく、いつも本ばかり読んでいる私だった。
性欲を満たすために性犯罪に手を染めよう、という時点で、彼を産んだ母親は泣き崩れるだろう。
ターゲットを選ぶ基準を聞いた日には、白装束で身を固め、軒先に縄を括り、輪を作って台から飛び降りてしまうのではないか。
性犯罪者はイコール親殺しである。
太宰治よりも先に、「生まれてすみません」しなければならないのだ。
話が逸れたが、とにかくクサ男のターゲットは私に決まってしまった。
だが、今のようにインターネットの発達していない時代である。
中学生はパソコンどころか携帯電話さえ触ることは稀で、情報の収集は困難であった。
身も蓋もない言い方をすれば、クサ男は性行為のやり方も、婦女暴行の具体的な手段も、何も知ることができなかったのだ。
これだけは、私にとって幸いだった。
結局クサ男は、「帰り道に人通りの少ない場所で私の胸を揉む。あわよくばスカートを捲ってパンツを見る。それをオカズに帰ってシコる」という、最も単純でリスクの少ない行為を選んだ。
田舎では良くあることだが、周囲が田んぼばかりで、歩行者の少ない道というものは存在する。
自衛の為に人通りの多い道を…なんて、どだい無理な話なのだ。
クサ男の手口は、
①友達の少ない私が、1人で帰宅するところを根気よく尾行する
②人通りの少ない田んぼ道で、走って近づく
③私が逃げようとするのを、鞄(当時はリュックのような背負式だった)を掴んで阻止
④もがいて離れようとするところで、すかさず胸を揉む
⑤ダッシュで逃走
と、いったものだった。
すぐには触らず、暫く並んで歩かれた後で、突然胸を触ってくることもあった。
並んで歩く意味は、今思えば「女子と下校する」という青春イベントを疑似体験したかったのかもしれない。
不美人にも選ぶ権利はあるし、クサ男に疑似彼女にされていたと思うと寒気がする。
こういうことを複数回やられた。
スカート捲りは、オタクな私が制服を着崩さず、スカートが膝下だったために捲りあげるのが困難で、1度も成功しなかった。
と、思ったら学校の下駄箱の前で靴を履き替える際に覗こうとしていたから、その変態性欲を別のことに使えないのだろうか。
幸いなことに、性犯罪者クサ男とは高校進学で縁が切れた。
クサ男はスケベに脳味噌が支配されていたために成績がかなり悪く、地元でも名前さえ書ければ入れると揶揄される高校にしか行けなかったのだ。
私は、親の希望で身の丈に合わない進学校に入学した。
そもそも友達が少なかったし、進学校の勉強量が余りに多すぎて、同じ中学の誰がこの高校に入ったか、なんて、暫くは気にする余地も無かった。
入学から大分時間が経過した、ある朝のこと。
「あっ!」
私は、下駄箱の前の廊下で懐かしい顔と再会した。
クサ男ではない。
クサ男の唯一の友達で、腰巾着だったチビ男である。
私をオカズにしているくせに、学校ではいつもネチネチと、悪口ともイジメとも判断できない微妙なウザ絡みをしてくれたクサ男。
その後ろで、締りの無いニヤニヤ笑いを浮かべるだけだったチビ男。
いつもクサ男とばかり会話していて、「高校でも親友だよな!」の言葉に笑顔で頷いていたチビ男。
(こいつ、進学校に来るだけの学力、あったんだ…)
高校では他のクラスだったから、余計に気づかなかった。
チビ男は、私のことを覚えていたらしい。
私の顔を見ると、「しまった」という表情をして、走って逃げてしまった。
(何だ。クサ男とつるんでても良いこと無いって、ちゃんとわかってたんだ)
高校に入ってからのチビ男は、ごく普通の、目立たない男子生徒に変わっていた。
過剰に派手ではないものの、普通に明るく、普通に友達付き合いもしていたようだ。
ヘラヘラした媚びるような笑みは封印され、誰かの腰巾着になったり、女子生徒の悪口を言うこともなくなっていた。
クサ男と連絡をとっていたのかはわからない。
しかし、社会人になってから1度だけクサ男と再会したが、クサ男はチビ男の話題を一切出そうとしなかった。
男の友情は熱い。
それに比べて、女の友情は脆い。
性犯罪被害者をとやかく言う風潮は減ったものの、友情の話となるとこのような戯言を得意顔で語る男は依然として多い気がする。
だが、本当にそうだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます