2.順番に加えていかないと、失敗しちゃいます。(前)

 おんなのひとが、おんなのこをみあげました。


「な、何をお望みでしょうか……?」

「そんなに警戒しないでよー。大したことじゃないって、私のマッチを『魔法のマッチ』にしてほしいだけ」


 あかるくいわれて、おんなのひとは、きょとんとしました。


「『魔法のマッチ』……ですか?」

「そ。あなたに『願いが何でも叶うマッチ』だと認識してほしいの。あなたはこの世界を定義している深層意識統合体、あなたが『そうだ』と認識すれば、それはこの世界では事実となる。そうでしょ?」


 おんなのひとは、ちょっとこまりました。


「それは、そうですが……。でも、『何でも』は不可能ですよ?」

「分かってる。あなたは神様じゃないもの。まあ、フツーの人からすれば神様だけど」

「まあ、今までは神と思われてきましたね」

「実際、神様みたいなもんだけどねー。でも、出来ないことはちゃんとある。だから、出来ることをしてもらいたいのよ」

「それが『魔法のマッチ』ですか?」

「ええ。出来る範囲で十分よ。それで何とか未来を変えてみせるから」


 おんなのひと、またまたびっくり。


「未来をご存知なんですか!?」

「あー、うん、このままだと私、凍死確定なんだよねー」

「いや、まあ、それはそうでしょうけれど……何で確定だと知ってるんです?」

「いや、体験済みなんで」

「体験……って、まさか」


 おんなのひとに、じっとみつめられて、おんなのこは、ちいさくバンザイしました。


「コレ、1回目の人生の繰り返しなのよね」

「繰り返しまでアリなんです!?」

「いや、私も初めてのケースよ!?」

「あなたが初体験ってあるんだ!?」

「驚くのソコ!?」


 おんなのこにはじめておどろかれて、おんなのひとは、かえってあわててしまいました。


「いえ、意外だったもので……もう何でもアリな方に見えてましたから……」

「あなたが言うの、ソレ?」


 おんなのこが、くすくすわらいました。つられて、おんなのひとも、ちょっとえがおになりました。


「ふふふっ、本当ですね」

「じゃあ、お願いできる?」

「分かりました。では、あなたに幸運を」

「ありがと。じゃあね」


 わらいあってたら、またまっしろになって、おんなのこは、もとのところにいました。


「さて。試してみましょうか、っと」


 おんなのこは、マッチをすりました。


 シュッ。


「とりあえず、暖かい外套!」


 とにかく、さむくてさむくてしかたがないのです。おんんなのこは、あたたかいふくを、マッチにおねがいしました。


 ぽんっ。


 マッチのひのなかから、ふくがでてきました。かわいくて、あたたかそうです。


 でもね。


「って、小っさ!!」


 てのひらにのっているふくをみて、おんなのこは、おもわずおおきなこえになりました。


 おにんぎょうさんがきるふくみたいです。


 とってもかわいいのに、ああ、ざんねん。


 しかも、マッチがきえたら、ふくもきえてしまいました。


 ああ、ざんねん、ざんねん。


 そのとき、おんなのこのあたまのなかだけに、こえがきこえてきました。


(それはまあ、私が認識しても、あなた一人しか認めていないんですから……)

(そうよねー、多数決の原則だものね、統合体は――って、あなたまだいたの!?)

(というか、あなたが私を完全に認識しているものですから、つながったままになっているんですよ)

(あ、そっか。じゃなくて、もうちょっと何とかなんないの!?)

(ですから、あなた一人が認めている程度では、そのぐらいなんですよ)


 おんなのこ、ちょっとかんがえこんでしまいました。


(ですから、『何でも』は不可能だと――)

(なら、認める人が増えればいいのよね?)

(え? ええ、まあ、その通りですけれど……)

「よし」


 おんなのこは、ひとどおりにもどりました。


 たくさんのひとがあるいています。それを、おんなのこが、じーっとみています。


 じーーーっ。


(……あの?)

(誰に声をかけるかが問題なのよ、こういう時は……よし、あれだ!)


 おんなのこがみつけたのは、おやこづれでした。ちいさなおんなのこがないていて、おかあさんがなぐさめています。


「あのお人形さんがほしかったんだもん……」

「だから、また今度ね? 今日は買えないけど、今度はかってあげるから」


 ちいさなおんなのこは、なみだめで、ほっぺをふくらませています。おかあさんは、ちょっとこまっているみたい。


 おんなのこは、マッチをすりました。


 シュッ。


「光の蝶々っ」


 ぽんっ。


 おんなのこのちいさなこえで、ちょうちょがでてきました。


 ひかりでできた、ふしぎなちょうちょです。


「さあ、お行き」


 おんなのこにいわれて、ちょうちょがとんでいきます。


 ひらひら、ひらひら。


 ちいさなおんなのこのまわりで、ひらひらとんでいます。


「わあーーー」

「あら? 蝶々? こんな季節に?」


 ちいさなおんなのこがなきやんで、おかあさんはほっとして、でもふしぎそう。


 ちょうちょのあとをつけてきたおんなのこが、ひょこっとかおをだしました。


「うふふ、気に入った?」

「うん! とってもきれいーーあ、消えちゃった……」


 おんなのこのマッチのひがきえて、ちょうちょもきえてしまいました。ちいさいおんなのこは、ざんねんそうに、うつむきました。


 おんなのこが、えがおで、マッチをシュッ。


 ちょうちょが、また、ひらひら、ひらひら。


「わあ! お姉ちゃんすごい! ちょうちょを出せるの!?」

「ううん、私じゃなくて、凄いのはこのマッチなの。『魔法のマッチ』なんだから」

「すっごーい!」


 ちいさなおんなのこが、はしゃいだので、あるいていたひとたちも、おんなのこたちをみはじめました。


(視線が集まった、ここだ!)

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