2.順番に加えていかないと、失敗しちゃいます。(後)

 おんなのこは、ひらりとまわって、かかとをならして、おおきくてをたたきました。


「さアさア! お急ぎの方もそうでない方も、ちょいとこちらをご注目あれ! はイ、向こうの方はお耳を拝借、手前の方はお目を拝借! なアにお時間お手間はとらせませんとも、何せ扱う物がマッチですから、所詮燃え尽きるまでの一瞬でございますれば!」


 おんなのこの、とってもげんきなこえに、なんだなんだと、あるいていたひとまで、ちょっとたちどまりました。


(テキ屋でもやってたんですか?)

(いや、これは真似事)

(その割には、堂々たるものですが……)

(見習いのうちに刺されて死んじゃったからねー、59回目のときは)

(何だかブラックなコト多くありません!?)

(そんなことないって。半々、いや白4の黒6……やっぱ3の7、いや2の8かなー?)

(ほぼ黒!?)

(てへっ♪)


 おんなのこ、せきばらいをひとつ。それから、おおきくいきをすって、つづけます。


「ただ、マッチといっても、そんじょそこらのマッチじゃアございません! 実はこのマッチ、みなさまの小さな願いを叶える『魔法のマッチ』でございます! おや、信じてない、信じていませんね? そりゃアそうでしょうとも、そんなの見たことも聞いたこともない、そりゃアごもっともというものです! ところが、これについちゃア見た方がいらっしゃるんです!」


 そこで、おんなのこは、ちいさなおんなのこへ、手のひらをむけました。


「はい、こちらのお嬢様です! お嬢ちゃん、このマッチで見たのはなんだったかな?」

「ちょうちょ!」

「はい、この通り! おっと、お嬢様を嘘つき呼ばわりはいけませんよ? だって、ほらこの通り!」


 おんなのこがマッチをシュッ。


 ぽんっ。


 ちょうちょが、ひらひら、ひらひら。さっきよりも、ほんのちょっとだけ、おおきくなっています。


 ちいさなおんなのこが、おおよろこび。そして、みているひとたちから、すこしだけ、ほぉ、とこえがきこえました。


「はイご覧の通り! おっと、信じられない? まだまだ信じられない? そりゃアそうでしょうねエ、ごもっともごもっとも! では、そこの貴方!」


 おんなのこが、わかいおんなのひとをゆびさしました。さっき、こえをあげたなかのひとりです。


「わ、私?」

「ええ貴方! ひとつ願いを言ってくださいな、おっと大きな物はご遠慮を、ややこしいこともご勘弁を! 何せ小さなマッチでございますれば、可愛らしいことで、そう、バラ一輪なんていかがです?」

「え、ええ、じゃあそれで……」

「ようござんすとも!」


 おんなのこが、マッチをシュッ。


 ぽんっ。


 きれいなバラがでてきました。まっかで、とってもみずみずしいです。


「あら、本当に出た!」

「ね、嘘じゃアございませんでしょ? 」


 わかいおんなのひとが、びっくりしました。ほかのひとたちから、また、ほぉ、とこえがあがります。さっきよりもおおくなりました。


「さアさア、いかがでございましょう? 嘘じゃアございませんでしょう? もっとも、マッチが消えてしまえば蝶々もバラも消えてしまう、夢幻の一時なんですが。おや、それでもまだ信じられない? ではひとつ華やかにいってみせましょう!」


 おんなのこが、マッチをシュッ。


 つづけて、シュッ、シュッ、シュッ。


 ぽんっ、ぽぽぽんっ。


 マッチから、ちいさなひかりが、ひゅるるるっとよぞらへあがっていきます。


 ぱーん、ぱぱぱーん。


 みんなのあたまのうえで、ひかりがはじけました。


 はなびです。ちいさいけれど、きれいなひかりのはな。


 あつまったひとたちが、うえをみながら、おおーとこえをあげました。


「さアさア、続けて参りますよ! 一時の夢をご堪能あれ!」


 おんなのこ、マッチをシュシュシュシュシュシュッ。


 ひゅるるるるるる、ぱぱぱぱぱーん。


 よぞらに、どんどんはながさきます。さっきよりもいろがついて、あか、あお、きいろと、とってもきれい。


 さいごのはなびが、どーんとおおきくさいて、みんながはくしゅしました。


 ぱちぱち、ぱちぱち。


「ありがとうございます、ありがとうございます! さアいかがでございましょう? この『魔法のマッチ』、本当なら結構な貴重品ではございますがこの年の暮れ、皆様の新しい年をお祝いする意味を込めて1本銀貨1枚、いや銅貨10枚、いやいや銅貨3枚でお譲りいたしましょうか! 数に限りもございますので、早いもの順でございますよ! さア買った買った!!」

「はっはっは! 面白い、買った! 記念に1本もらおう!」

「おう、俺にも1本くれ!」

「あたしにも!」

「俺は子供の土産に3本!」


 みんな、おんなのこへとあつまって、つぎつぎとマッチをかっていきます。


 あっというまにたくさんうれて、おんなのこのポケットは、ちいさいおかねでいっぱいになりました。


 マッチはまだありましたが、おんなのこはのこりをかくして、うりきれですといって、おしまいにしました。


 はじめのちいさなおんなのこにてをふって、おんなのこは、いえにかえることにしました。


(……ひとつ、言っていいですか?)

(何?)

(まっっったく、子供らしくありませんでした)

(だよねー。なんかごめん)


 おんなのこ、あたまをぽりぽりかきました。


 いえにかえったおんなのこは、おとうさんにおかねをわたしました。たくさんだとあやしまれるので、すくなめにしたのですが、それでもいつもよりちょっとおおかったので、なぐられずにすみました。


 つぎのひのあさ、おんなのこは、あったまろうとして、マッチにひをつけました。


 そして、ちいさくいいました。


「……やば。ミスったみたい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る