3.一気に強火で、スパイスたっぷりで出来上がり!(前)

 おんなのこは、ふくをきがえて、かばんにいろいろつめこみはじめました。


 とってもあわてて、おおいそぎです。


(どうしたんですか? そんなに慌てて)

(失敗したのよっ!)

(え? 大成功ですよね? 狙い通りに、マッチの効果が桁違いに上がってるじゃないですか)


 あたまのなかで、おんなのひとのこえがいいました。


 そのとおりで、マッチをすったら、へやのすみずみまで、とってもあったかくなったのです。


 それに、マッチも、なかなかもえつきません。ゆっくり、ゆーっくりともえていきます。


 まるで、ちいさなろうそくみたい。


(だから失敗なのよ、成功しすぎたの!)

(成功しすぎ……ですか?)

(マッチの力が強くなり過ぎちゃった。でも、昨日の人数に認めてもらっただけでこんなに……いや、その後、みんなが帰ってから人づてに広がったのか? マッチの実物を持って帰るんだから説得力あるよね……いや、だからって、魔術情報伝達網もスマホもテレパシー移植手術もない世界なのに……あーもー、口コミの力をナメてたわー)


 あたまのなかがぐるぐる、でも、おんなのこは、あっというまに、したくをととのえました。


(ですが、効果が上がれば、その分あなたに有利なのでは? 持ち主なんですから)

(そんなわけないでしょ!? リスク上がりまくりよ? あなた、人間をナメてない!?)


 おんなのこは、こっそり、いえからでました。


 そとにでると、あさもはやいのに、あっちにも、こっちにも、けっこうひとがいます。


 みんな、なにかをさがしているみたい。


 おんなのこは、ひとのいないとおりをえらんで、かくれながら、はしっていきます。


(周りの家を見てみなさいよっ)

(周り……あら? 何か変ですね? 所々の建物が妙に綺麗だったり豪華だったりしてますよ)


 おんなのひとのいうとおり、ときどき、とってもきれいないえがあったり、すごいいえがあったりします。


 かべもぴかぴか、まどもぴかぴか。かけてたり、ひびがあったり、つぎはぎがあったりはしません。


 まっさらで、りっぱです。


 だから、まちなみが、なんだかちぐはぐ。


(マッチで家を直したんでしょうよ。リフォームしちゃってるのもあるわね。たったマッチ1本でそんなことが出来るのよ? もっと、もっとって思うわよ、フツー)

(あ、そうですよね)

(で、持ってない人は欲しがるでしょうね。他人がそんな良い目にあってれば)

(そうで……って、そうすると……)

(マッチを持ってる私は、どうなる?)

(あ)


「よお、お嬢ちゃん、慌ててどうしたんだい?」


 おおどおりのようすを、こっそりのぞいていたおんなのこの、そのうしろから、こえがしました。


 おんなのこがふりかえると、おとこのひとがたっていました。


「おや、迷子かな?」


 またうしろから、こえがしました。べつのおとこのひとがたっています。


 おんなのこは、おとこのひとたちに、はさまれました。


「こんな朝早くから、可哀想になぁ」

「なあに心配いらねえ、おじさんたちが家まで送ってあげるからよ」


 ねこなでごえですが、おじさんたち、ちょっとこわいです。からだもおおきいし、かたとか、うでとか、もりあがってるし。


 じりじり、じりじり、ちかづいてきます。


 おんなのこは、したうちしてから、こっそりマッチをすりました。


 きこえないように、ちいさく、ちいさくいいました。


「身体強化っ(physical-faculties, up)」


 そして、ちかづいたおじさんのあごに、おててをにぎって、ぶつけました。


 ドカッ!


「がっ!?」


 おじさん、ちょっとうくぐらいのけぞって、ふっとびました。


「こ、このガキ!」


 もうひとりのおじさんが、とびかかってきます。


 でも、おんなのこは、ひらりとかわしながら、おじさんのてをつかんで、せなかへとひねりあげました。


 そのまま、せなかにとびついて、かたてでおじさんのてをもったまま、もうかたてで、おじさんのくびをしめました。


「ぐぉ……この……ガ……キ…………」


 おじさん、きをうしなってしまいました。


(ず、ずいぶん手慣れてますね……)

(19回目は負傷兵だったって言ったでしょ? 得意だったのよ、CQC)

(CQC?)

(ああ、この時代じゃ言わないか。軍隊式の近接格闘術のことよ。新兵イビリにもってこいなのよ?)

(いちいちブラックですよね!?)


 そのとき、おおきなこえがしました。


「いたぞー、こっちだ!」

「ちっ! 気づかれた!」


 おんなのこがふりかえると、ひとがはしってくるのがみえました。


 おおどおりのあちこちから、どんどんあつまってきます。


「身体強化は……まだ有効ね!」


 じめんにおちても、マッチはきえていません。もう、ちょっとやそっとじゃ、きえないみたいです。


 おんなのこは、マッチをひろって、かけだしました。


 まえからきたひとをけっとばして、どんどんはしります。


「おい! あっちだ!」

「逃げるわよっ!?」

「待てやゴラァ!!」


 みんな、くちぐちにいって、おっかけてきます。


 ガラがわるいです。

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