1.下ごしらえって、とっても大切。(後)

「多いですねっ!?」

「そう? 意識生命体の頃は、3桁以上、4桁のツワモノもいたわよ?」

「まさかの桁違いっ!?」

「だから、私ぐらいは別に珍しくはないと思うけど。まあ、前世の記憶を思い出せるかどうかは運次第だからねー。今回は運が良かったなー」


 あっさりいわれて、おんなのひとは、ぽかーん。でも、なんとかえがおになって、いいました。


「そ、それは、ええっと、良かったです? ね」

「ショック療法って効果あるのねぇ。ちょっと痛かったけど」


 おんなのこが、あたまをさすったので、おんなのひとは、しんぱいそうにいいました。


「あら、お怪我でも?」

「お父さんにちょっと殴られたんで」

「殴られた!?」

「あ、大丈夫よ? 薄っぺらい安物のビンだったから」

「それ凶器ですよね!?」


 おんなのひと、びっくりです。


「いや、ビンだから割れてくれて助かったのよー。あれが拳骨だったら、首の骨がイッてたかも?」

「ちっともちょっとじゃないっ!?」


 おんなのひと、もっとびっくりです。


 おんなのこは、はっはっはとわらっています。


「大げさだねー。結局あたまが少し裂けた程度だったし? それももう縫っといたし? 大丈夫大丈夫」

「……縫ったって、ご自分で?」

「うん。棚に裁縫セットがあったし」

「裁縫セットて!」

「戦場では物資がないんだから、ある物を利用するのよ? お父さんのお酒で消毒も出来たし」

「戦場が比較対照です!?」

「45回前は軍医で、19回前は重傷の負傷兵だったから。縫う方も縫われる方も経験済みです♪」

「まさかの両方!?」


 おんなのこは、おどけて、ぺろっとしたをだしました。


 おんなのひと、ずっとびっくりです。


「ほ、本当に経験が豊富なんですね……」

「まーねー。そこそこ良い目にも、そこそこ悪い目にも逢ってきたからねー。しっかし、あなたがその姿に見えるってことは、私にも可愛いところが残ってたのねぇ」


 おんなのひとが、くびをかしげました。


「そういえば、誰に見えてるんですか?」

「えっと、お母さんの姿なのよね」


 おんなのこが、はずかしそうにいいました。


 おんなのひとが、ほっとしました。


「ああ。良いお母さんだったんですね?」

「というか、可愛い人だったよー。マッチ売って帰ったら真っ先に迎えてくれてねー」

「うんうん」

「売り上げを取り上げてネコババしてねー」

「うんう――って、はいぃっ!?」

「貯めたヘソクリと家の現金持って、男と逃げたのよねー」

「ちょっ!? ちっとも可愛くないですよ!?」

「えー? 女なら不思議じゃないっしょ? その程度、可愛いもんじゃん」


 おんなのひと、ピーンときました。


「……経験がおありなんです?」

「おっ、鋭いね? うん、まあ、イロイロやらかしたことが、ねー」

「何をやらかしたんですか……」


 おんなのこが、めをそらしました。もじもじとしています。


「……いやぁ、前にね、ちょっとお縄になっちゃったことが、ね?」

「お縄にって、逮捕されたんですか? まさか凶悪犯罪者!?」

「いやいや、懲役刑で済んだから! ちゃんと刑に服したから!」


 あわてるおんなのこをじっとみて、おんなのひとはためいきをつきました。


「……そうなんですか?」

「うんうん。まあ、懲役600年で、監獄島から脱獄出来なかっただけなんだけどさー」

「600年て!」

「死刑のない国だったから、恩赦があっても出られないようにするしかなかったんだよねー」

「それ実質最高刑ですよね!?」

「まあ、アレはそう判決されるわよねー。私も、34回目に最高裁裁判官だったときに同じような判決したもん」

「両方経験済み再び!?」

「まだ転生3回目だったから。若かりし頃の黒歴史だよー」

「若さが年齢じゃなくて転生回数になってる!?」


 またはっはっはとわらうおんなのこに、おんなのひとはがっくりしました。


「まあ、長く生きてれば色々なことがあるってことよ?」

「転生回数でカウントするんじゃなくって、生きるって……あれ? 生きるって、何なんでしょう……?」


 おんなのひとのあたまがぐるぐるしはじめたので、おんなのこが、ぱぁん、と、てをたたきました。


「はいはい、哲学的命題は後で、ゆーっくり考えて。私、あなたにお願いがあって来たんだから」

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