ブラック人生×73回、マッチを売るのを辞めました
橘 永佳
1.下ごしらえって、とっても大切。(前)
むかしむかし、おおみそかのよるのことです。
ゆきが、ずっとふっていました。
こんこん、こんこん。
そんなまちのなかを、おんなのこがあるいています。
くたびれたふくで、もっているかごには、マッチがたくさんはいっています。
おんなのこは、なにかをさがしているみたいです。
きょろきょろ、きょろきょろ。
あっちをみたり、こっちをみたり。
そして、くらくて、だれもいないところで、おんなのこは、マッチをつちに、つきさしはじめました。
くっつけてならべるように、マッチをさしていきます。
おとうさんにわたされたマッチは、とってもたくさん。だから、なくなるしんぱいは、これっぽっちもありません。
できたのは、もようみたいにならんだマッチたち。
びっくりするほど、ややこしいもようです。
「さて、ここからが本番。迷っちゃダメよ、私」
おんなのこは、マッチにひをつけました。
ひは、あっというまに、つぎつぎともえていきます。
ほのおのもようの、できあがり。
ゆらゆら、ゆらゆら。
くらいなかで、いやというぐらい、めにとびこんできます。
おんなのこが、じっとみています。
そのめは、まるっきり、いちばでうられているさかなのめ。
みているのか、みていないのか、わかりません。
これっぽっちも、うごきません。
さかなのようなめに、ほのおのもようが、うつっています。
そのまんなかに、ぽうっと、ひかりがともりました。
もえているマッチとは、べつのひかり。
そのひかりが、マッチのほのおを、のみこみます。
どんどん、ひろがります。
どんどん、どんどん。
どんどん、どんどん、どんどん。
そして、ひかりで、いっぱいになりました。
おんなのこは、まっしろいところに、うかんでいました。
おんなのこは、おおよろこび。
「やった! 成功!」
おんなのこに、だれかがはなしかけました。
「狙ってここに来れる人がいるなんて……」
おんなのこがふりかえると、おんなのひとがいました。
くたびれたふくの、やさしそうなおんなのひとです。
おんなのこは、ばつがわるそうに、ちいさくわらいました。
「うーん、その姿で来るかぁ」
あんまりおどろいていません。
おんなのひとのほうが、すこしおどろきました。
「あら、驚かないの?」
「私の一番印象深い人の姿に見えているだけでしょ? 『世界の意思』さん?」
おんなのひとが、こんどは、ほんとうにびっくり。
「私のことをご存知なの?」
「何度か会ってるから。あ、この世界じゃなくて、だけれど」
「この世界……って? え?」
「前前前世では、高次元意識生命体で『覚者』だったから。『世界の意思』、世界を定義している深層意識統合体にアクセスする方法は知っているの。というか、思い出せてよかったわー」
おんなのこがなにをいってるのか、おんなのひとには、ちんぷんかんぷん。
「えっと……?」
「あー、そうねぇ、平たく言うと、私は生まれ変わって来たのよ。別の世界から」
「そんなのアリですか!?」
「アリよ? 直前の世界じゃあ、小説のネタの鉄板だったのよ?」
「嘘ぉ!?」
おんなのひと、すわりこんでがっくり。そして、ひょこっとかおをあげて、いいました。
「直前って、何回かご経験が?」
「うん」
「ちなみに、何回ほど?」
「そんなに多くは……」
おんなのこは、ちょっとだけ、かんがえました。
「えっと、今回で73回目?」
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