ぞっとする短編怪談『ホテルに巣くう少女の霊』

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『ホテルに巣くう少女の霊』

実話です。


バブルが崩壊し、時代が不況に突入した1990年代のある夏の日・・・


崩壊の余波は私の業界にも押し寄せてきました。入院患者ケア商品販売会社に勤めていた私は売り上げが激減。会社からの無茶なノルマを達成すべく、一人営業車に乗り大阪から四国に向かいました。


県をまたぎ大きな病院を巡り続け、気が付くと日もすっかり落ちていました。国道沿いのドライブインで食事をし、初めて予約した県境のビジネスホテルに向かうため寂しい山道をひたすら走ります。


30分後やっとホテルに到着すると、そこは一見してかなり古い建物だとわかりました。調べもせずに予約した1泊4000円の安宿なので贅沢は言えません。


フロントでチェックインを済ませ501号室のドアを開けると・・・


部屋はかび臭く、天井と壁は雨漏りの跡なのか茶色いシミがあり不気味な感じがします。シャワーを浴び、浴衣を着てベッドの上で缶ビールを呑むと、疲れがどっと押し寄せいつの間に寝ていました。



異変を感じて目を覚ましたのは真夜中の2時を過ぎた頃でした。



食べ物が腐ったような嫌な匂いが鼻をつきます。

悪臭のもとを探そうとベッドの下やゴミ箱を見ましたが何もありません。


「気のせいか・・・」


読書灯を消して布団の中に入りました


寝苦しくて左から右へと寝返りを打ったその時です。


暗闇の中、私の右隣に何か得体のしれない黒いものが見えました。


その黒い物体が凄まじい悪臭を放っています。


すると突然身体が硬直して動けなくなり、全身が総毛立ちまるで冷水を浴びせられたかのように寒気が走ります。



目の前にある黒い物体とは・・・



人の後頭部です。



短い髪の何者かが私の右横で寝ているのです。悪臭の原因はその頭の毛でした。


すると後頭部がジリジリと動き始め、私の顔に向きを変えようとしています。


私は唖然として目を閉じることも体を動かすことも出来ません。


何度も経験しているのでわかります。それは明らかにこの世の者ではありません。


声を上げようとしましたが、「ああううう」という言葉しか出てきません。


「ああ・・・こ・・・ちに・・・くうる・・・な・・・」


何度も必死に声を出そうと試みると、少しだけですが出るようになりました。


そして全身に力を込め声を張り上げました。


「どけ!!こっちに来るな!!」


同時に身体の硬直が解け全身に血が巡るのを感じた私は、両手でその頭を強くはね除けました。



目の前から頭は消えました。



ほっとして身体の向きを変え、天井を見上げると・・・



その瞬間、「く」の字に折れ曲がる程の衝撃を腹に受けました。


ベッドのマットレスが軋み音を立てて歪みます。


「げえげえ」と嘔吐けながら自分の腹に視線を送るとそこに・・・


5歳くらいの泥で汚れた紅い着物を着た、おかっぱ頭の少女が笑顔で腹の上に立っています。


そして私に・・・


「ねえ、ねえ、あそぼう、あそぼうよ!!」


と叫び再び私の腹の上でぴょんぴょんと何度も跳ねています。


その度私は、「げえげえ」と嘔吐け「や、め、て、く、れ、し、ぬ」と命乞いをしました。


「きゃははは・・・たのしい!!」


少女は笑いながら何度も腹の上を飛び跳ねます。


このままでは、「殺される」と思った私は、少女が跳ねたその瞬間ベッドから床に自分の身体を落としました。


すると・・・


「なんでにげるの?」


少女が鬼のような形相をして見下ろし、私の顔をめがけベッドの上から飛び降りようとしています。


凄まじい殺意です。


そして少女がベッドから勢いよく飛び降り・・・


私は咄嗟に身体を回転させてベッドの下に潜り込みました。


「つまんない・・・」


確かにそう聞こえました。


私は息を潜めベッドの下から、少女の汚れた足が目の前から立ち去るのを確認しました。


少女があきらめたと思ったその瞬間・・・



「あっ、ここにいた!!」



少女がベッドの下を覗き込みました。


その時カーテンに映る街灯の灯りで少女の顔がはっきりと見えました。


黒く焼けただれた顔の左半分がありません。。


そして少女は両手をベッドの隙間に入れ、私の顔をつかもうとしています。


私はさらに奥へと奥へと・・・


しかしとうとう両手は私の顔をつかみ、もの凄い力でベッドの下から引きずり出そうとしています。


「ギエッ!」


悲鳴にもならない声を上げながら必死に奥へと逃げました。


その時、顔を持つ少女の手がすべり、私は勢いよく後ろの壁に頭を打ち付けました。



気を失っていたようです。



目を開けると窓の外が白くなっていました。


ベッドの下から這い出ると、猛烈に痛む腹を抑えながら急いで着替え荷物をまとめました。


信じてもらえないだろうし、言うだけ時間の無駄だ・・・


そう思いフロントの男性には何も言わずにチェックアウトしました。


ホテルの庭に何かを祀った大きな石碑があることに気が付きました。

急いでいた私は内容を確認せず営業車で救急病院に向かいました。



診断の結果、肋骨が2本折れていました。



医者にその理由を訊かれましたが、「酔ってベッドから落ちた」と答えました。



紅い着物を着た少女は、私の数多い心霊体験の中でも初めての『明確な殺意』を持った最凶最悪の霊でした。



石碑と紅い着物を着た少女は何か関係があるのでしょうか?



もし会社にありのままを報告すれば労災が認められたのでしょうか?



今もあのホテルは営業しています。



©2024redrockentertainment



(あとがき)

今回も最後までお読みいただきありがとうございます。父が体験した実話です。もしホテルの側に石碑やお地蔵様があれば、フロントに訊いてその謂われを確認した方が良いかもしれません。

                          2024・7・21 redrock







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