神々の諍い

やざき わかば

神々の諍い

 ここは天界。神々が治め、天使や妖精、そして善良な心を認められ、こちらに来ることが許された人間たちの魂が生活を送る、平和な世界である。


 そんな平和な世界とはいえ、やはり争いや諍いは常である。


 なんと、天界の上層部に君臨する、慈愛を司る女神と、武勇を司る武神が諍いを起こしているというのだ。


 この二柱は元々夫婦みたいな関係で、お互いに、苦手なことを補い合い、助け合って天界を治めてきた存在だ。それが争いを起こしているなど、前代未聞のことだった。


 そして、ついに全面戦争の様相を呈してきた。天界は上を下への大騒ぎ。一番えらい立場にいる全能神は、仲介すらもしない方針だ。つまりは「かってにやらせておけ」ということらしい。


 そしてある日、ついに女神と武神は決闘を行うことになった。


 あらかじめ決められた場所で、二柱は相対する。周囲にはその行方を、固唾を飲んで見守る市民たち。つまりは野次馬たちが大勢集まっていた。


 慈愛の女神が武器を構えると、武神は懐からひとつの禍々しい仮面を取り出し、高笑う。


「ははは、女神よ。貴様には俺を傷付けることは出来んぞ。俺にはこの『五面』の面がある。これはな女神よ。五つの感情が強固に取り憑いた面であり、その場にいるモノ全てが装着者に頭を垂れると言い伝えのある、古代の魔道具なのだ」


「槍ひとつの私に、御大層な代物を用意するのね。周囲に集まっている市民たちに危害を加えるのなら、そんなものを付けるのはおやめなさい」


「はははは。もう遅い。付けるぞ」


 武神は『五面』の面を躊躇なく被った。その場にいる全員が、これから何が起こるかと恐怖した。


 

 しばらく経ったが、何も起こらない。周囲がガヤガヤ、ザワザワとしている。仮面を付けた武神は、その間ずっとうつむいていた。


「ねぇ武神。なにも起こらないのだけど」

「……」

「まさかとは思うけれど、『五面』って『ごめん』ってこと?」

「……」

「図星かよ」


 女神を始め、周囲の野次馬たちは項垂れた。


 言い伝えは事実であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神々の諍い やざき わかば @wakaba_fight

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ