第21話 千花は茶々とグローリアと一緒に七彩湯にいる

「――こんにちは、七彩湯さん」

「あ、菫とおばさん! また来てくれたんだ」

 わたしは洗い立てのバスタオルがどっさり入った洗濯カゴを置いて、二人にかけ寄った。

「七彩湯のお風呂に入ったら、よそには入れないもの。『疲れには七彩湯』って言葉ができてもおかしくないわ」

「千花も一緒に入らない? お母さんが三人分払ってくれるよ」

「わたしはまだお手伝い中だから。今日はお洗濯日和だからね」

 菫は口をとがらせて「次は一緒に入りましょう、約束よ」と言った。

「うん、約束」

 わたしと菫は小指をキュッとからませあった。

「そういえば、今日ここに来る前に楓に会ったの。七彩湯に行くから一緒にどうって聞いたら、考えとくわって言ってた」

「そっかあ。まだ怪しまれてるのかな?」

 菫はフフッと笑って、「ううん」と答えた。

「顔には、行きたいって大きく書いてあったよ。散々怪しいって言った手前、素直に来るのが恥ずかしいみたい。でも次に誘ったら、喜んで来ると思うよ。肩がうずうずしてたもん」

「それじゃあ、いつか学校のみんなでお風呂に入れるかもしれないんだね! 楽しみ!」

 わたしが飛び跳ねて喜ぶと、菫も一緒になって飛び跳ねてくれた。茶々もキュウキュウ鳴いて喜んだ。


 菫たちが中に入ると、今度は百合さんが歩いてくるのが見えた。お隣には、百合さんのお母さんである牡丹ぼたんさんの姿もある。

「お風呂空いてるかしら?」

「はいっ、今は赤色だけ使用中です」

「よかったあ。母さんが七彩湯に行きたいって朝から張り切っちゃって」

「そうなんですね! ありがとうございます」

 わたしが牡丹さんの手をにぎると、牡丹さんはぼんやりした目で、にっこりと笑った。

「それじゃあ、グローリアさんを呼んできますね。牡丹さん、この前階段で転びかけたでしょう。だからグローリアさんが、次からは中まで運ぶって言ってたんです」

 グローリアさんによって軽々と中に運ばれた牡丹さんと百合さんは、オレンジ色のお風呂に案内された。牡丹さんは少しボケてしまったそうだけれど、オレンジ色のお風呂に入ると、明るくなって、前みたいに元気になるそうだ。

 

 裏に回って洗濯物を干していると、表からグローリアさんと誰かの笑い声が聞こえてきた。

「グローリアさん、どうしたんですか?」

 グローリアさんの後ろから顔を出すと、ボトンドさんが「やあ、千花」と答えてくれた。

「あ、ボトンドさん、また来てくれたのね!」

「今日は友人もつれてきたんだよ」

「しかもその友人が、わたしの友人だったのよ、千花!」

 グローリアさんは満面の笑顔で、お友達のドワーフを紹介してくれた。

「初めまして、フェレプといいます。グローリアとは、アロマストーンの依頼を受けて知り合ったんですよ」

「わあ、あの素敵なお花の! はじめまして、千花です。こっちは親友の茶々」

 フェレプさんは茶々にも優しくあいさつをしてくれた。

「今グローリアから事情を聞いてたんだ。ずっと連絡がなかったから、心配してたんだよ。まさか洞男が関係していたとは」

 グローリアさんはしょんぼりと肩を落として、「心配かけてごめん」とつぶやいた。

「いやいや、無事で何よりだよ。君たちのおかげらしいね。グローリアが助かったのも、ここがこんなに繁盛はんじょうしているのも」

「いえっ、三人でがんばってるからですよ」

 フェレプさんはにっこりと笑った。

「この調子だと七彩湯は早い者勝ちのお風呂屋さんになりそうだな。どうだい、一つ、増築ぞうちくというのは」

「えっ、考えてもみなかったわ! でも、おもしろそうね」

「最近は宝石技師の仕事以外に、建築にもかかわってるんだ。いくらでも相談に乗れるよ」

「ありがとう、フェレプ。どう思う、千花?」

「増築、すっごくいいと思います! 露天風呂にするのはどうですか? それなら中を変える必要はないし、きれいな七彩湯を眺めながらお風呂に入れたら、気持ちいいと思います」

「あはは、良い考えね! 夢が広がるわあ」

 そう言って笑うグローリアさんは、本当にうれしそうだった。


 グローリアさんがボトンドさんたちをお風呂に案内している間に、今度はグリフォンの親子がやってきた。大きな翼をたたんでいると、かわいらしい小鳥みたいに見える。茶々は興味津々でグリフォンの足元をうろちょろした。

「ここのお風呂、ピーアから紹介されて、ずっと気になってたんです。わたしたちが暮らすギリシャでも、海外でも話題なんですよ」

「そうなんですか、ピーアさんが! 遠くからはるばる来てくださってありがとうございます。うれしいです。魔獣のお客さんは金色のドアになりますよ。どうぞ」


 茶々と一緒にグリフォンの親子を案内してお店の外へ出ると、グローリアさんは両手を空に伸ばして伸びをしていた。

 わたしがそっと隣に立つと、グローリアさんは「お疲れさま」と言ってきた。

「今日もありがたいほどの大盛況ね。フェレプの言う通り、増築は絶対だわ。色は何色にしようかしら」

「もうすぐ春が来てチューリップが咲くので、ピンクはどうですか?」

「いいわね! それならフェレプに頼んで、チューリップ型のアロマストーンを作ってもらわなきゃ」

「ふふふ、楽しみですね。あ、でも里帰りが先ですよ。おばあちゃんったらお土産に何を持たせるかって、すごく張り切ってるんですから」

「そうなの! 晴乃さんには頭が上がらないわ」

 わたしとグローリアさんがフフッと笑うと、茶々も「キュキュッ」と笑った。



 あなたは今疲れてるかな? それとも悲しい? さみしい?

 それならなんでも温かく包み込んで、笑顔にしてくれる素敵な場所を教えてあげる。

 それは山奥にあって、ちょっと遠いけれど、絶対に行くべき「七彩湯」っていうお風呂屋さんだよ。あなたの周りの人にも教えてあげてね。

 わたし、千花とカワウソの茶々、それからケンタウロスの店主のグローリアさんが、とびきりの笑顔でお出迎えしますよ!

「いらっしゃいませ。七彩湯へようこそ!」

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七彩湯へようこそ! 唄川音 @ot0915

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