年輪を重ねた者にしか、できないことがある。

 物事には「若いうちでなければできないこと」「歳を取ってもできること」「経験を積み重ねてはじめてできること」があります。本作で描かれるのは3番目。冒険者として歳を重ね、戦い続けること30年。主人公は40代半ばのおじさんで、本作はこのおじさんの冒険譚です。

 華がないこと夥しいのですが、しかしこのおじさん、無駄に歳を食っているわけではありません。

 後輩たちの面倒を見る優しさがあり、戦い続けた経験があり、経験に基づいた勘があり、経験を活かしたコネがあり、コネを的確に使うしたたかさがあります。おじさんには絶対的な強さがあるわけではなく、経験も勘も優しさもしたたかさも、なにか「数値としてはっきりと出てくる」という類のものではありません。
 それでも、こういった「数字では計れない・計りきれないなにか」がおじさんをベテランとして成り立たせ、窮地にあっても生き延びさせ、そして周囲からおじさんを信頼させる原動力になっていることが、丁寧に描かれています。

 華々しさはなくとも経験に見合う実力を身につけたおじさんの周囲の人物たちも、おじさんと同じように若くはありませんが、やはりおじさんと同じように年輪を積み重ねなければ出ない味わいを出していて、物語に幅や奥行きが加えられています。

 きちんと作られた背景世界も、ストーリーの前面に出てくるところはありませんが、要所要所でチラ見せされて物語の背後に流れるものを感じさせるという、できのいい料理の下味のような役割を果たしています。

 本作は現在、第1章が完結したところ。32話・10万字少々と、一気読みするにもお手頃の分量です。
 いずれ始まるであろう第2章を待ちながら、あなたもおじさんの魅力を堪能してみませんか?

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