年の瀬に、捨てたものじゃない世の中の一コマを。

 知らない土地、知らない駅、知らない路線。
 見ず知らずの人たちは冷たくはないけれど、「私」の困りごとはそれでなくなるわけではなくて。

 郷里から東京に出てきて、ちょっと観光を、と寄り道をしようとした先で「私」はトラブルに遭遇してしまいます。
 東京に暮らしていれば誰でも遭遇するような、どうということのないトラブルであっても、「私」にとっては一大事。

 そんな「私」に手を差し伸べてくれたのは……?

 実際に誰がどのように手を差し伸べてくれたのかは、ご自身で読んで確かめてください。6,000字弱、訥々とした語りのように見えて引っ掛かるところのない端正な文章で、さらりと読めてしまうと思います。

 世の中捨てたものじゃないよね、と思えるような短編を、寒さが身に染みるこの季節だからこそ。
 読み終わったら、少し、暖かくなっているはずです。