第52話 異世界面接

「新人の魔導師は当ギルドには三人いる。ちょうど今、三人ともいたな」


 そう言ってハモンドソンは立ち上がった。


「ここに呼んでくるから会って話してみるといい」


「お願いします!」


「では私は失礼するよ」


 ハモンドソンは退室した。




 五分後。

 再びノックとともにドアが開くと、スタッフの女性に案内されて三人の魔導師が部屋に入ってきた。


「おうおうどっちが魔導博士だぁ?」


 その中のひとりのローブを着崩した赤髪の男が、大成たちを見るなりいきなりチンピラ口調で絡んできた。

 大成は内心「うわぁ、ヤベェのきたわぁ......」とヒキまくる。

 だがビーチャムは違った。


「そこに座れ」


 生意気な男にビシッと厳しい口調を浴びせた。

 

「ああ?」


「貴様には言語が理解できないのか?」


「んだとテメー」


「ちょちょちょっと待って」


 慌てて大成が仲裁に入る。


「まずは座りましょうよ」


 大成の言葉に赤髪の男は反応しなかったが、両隣の二人がソファーに腰かけた。


「チッ」


 赤髪の男は舌打ちをして、眉間に皺を寄せたままどっかと腰をおろした。

 大成は隣のビーチャムと向かいの赤髪の男をチラ見し、先行きの不安を抱きつつも挨拶を始める。

 異世界面接のスタートだ。


「まず自己紹介からさせていただきますね。初めまして。私は徳富大成と申します。わかりやすくタイセーとお呼びいただいて結構です。よろしくお願いします」


 それから隣のビーチャムを紹介する。


「こちらに座っているのが魔導博士のレオニダス・ビーチャムです」


「どうも」


 ビーチャムは安定の無愛想ぶり。

 予想通りではある。

 大成は気にせずに、魔導師三人へ促した。


「オレはB級魔導師のレッドだ。得意魔法は炎だ。新しい火の魔導具を開発したってヤツらに興味あるから来てやった」


 なぜか真ん中に座る赤髪のレッドから自己紹介してきた。

 ツンツン頭のヤンキーみたいな顔つきのレッドは、ギラついた眼で明らかにビーチャムを意識している。


「私はB級魔導師のコールド。得意魔法は氷。ハモンドソン代表から言われたから来た。よろしく」


 続いて左隣りの青髪で色白の男が自己紹介した。

 ぼそぼそと喋る彼は、入室してきてから今に至るまで一度も視線を合わせてこない。


「あっ、ええと、ぼくはC級魔導師のキースです。得意魔法は特にありませんが、魔法学は人一倍勉強しました。よ、よろしくお願いします」


 最後に右隣りのマッシュルームヘアーをした丸眼鏡の男が自己紹介した。

 奥手で大人しそうな彼は、終始おどおどしている。


「ありがとうございます」


 大成は三人に会釈をして「それでは」と本題に入ろうとする。

 ところがビーチャムがそれを制した。


「待て、タイセー。僕に話をさせろ」


「ビーチャムが?」


 大成はやや戸惑うが、了承した。


「ではまず、ビーチャム博士からお話があります」


 ビーチャムは頷きもせず、両肘を両膝に置き、両手を握り合わせてジロリと三人を睨みつけた。


「貴様らの目標、目的はなんだ?」


 一瞬、沈黙が走る。

 

「貴様らは何のために魔導師になった」


 ビーチャムが言葉を重ねた。

 するとにわかに赤髪のレッドが薄笑いを浮かべた。


「そんなの強くなって偉くなれるからだろう。オレにはそれだけの才能があるしな」


「強くなって偉くなってどうする?」


 すかさずビーチャムが質問を投げ入れた。

 レッドは、くだらないこと訊いてくるんじゃねえと言わんばかりに面倒臭さを露わにする。


「んなもん色んなもんが手に入るからだろ。地位とか名声とか権威とか金とか。こんなこといちいち説明する必要あんのか?」


「もういい。貴様は出てけ」


 即座にビーチャムは切り捨てた。


「ああ?」


「出てけ」


 にべもないビーチャム。


「さっきからテメー。このオレに向かってなんだその態度は」


 レッドがゆらりと立ち上がった。


「早く出てけ」


 ビーチャムはドアを指さした。

 もはやレッドとはまったく取り合う気がないようだ。


 大成はビーチャムの態度に困りつつも、否定する気にはならなかった。

 このレッドという男はダメだ。

 魔導師としての実力は知らないが、少なくとも一緒にやっていける人間じゃない。


「レッドさん。大変失礼しました」


 大成も立ち上がった。


「ただ、おそらく貴方と我々とでは価値観が大きく合わないのではないかと思います」


「価値観ねぇ」


 レッドは見下すような視線をぶつけてくる。


「我々は魔導具を使って多くの人々を豊かにしたいと考えています。貴方の進む道とは交わらないのかなと」


 ここまで大成が説明した時だった。

 突然、レッドが声を上げて笑い出した。


「それ、どの口がほざいてんだよ!」


「ええと、レッドさん?」


「タイセーさんよぉ。あんただって知ってんだろ?」


「知っているとは?」


 レッドは濁った眼つきをビーチャムへ貼りつける。


「コイツが大量殺戮者のマッドサイエンティストってことだよ」


 大成はハッとして、気づいた。

 そうか。

 このレッドという男は「マッドサイエンティストの魔導博士」に興味があるんだ。

 だからビーチャムに妙な興味を示したんだ。

 しかもそれは純粋な興味とは違う。

 明らかに不純なものだ。

 こんな人間を近づけてはならない。

 俺たちに、ビーチャムに。


「もうお帰りください。レッドさん」


 大成は丁寧に、しかし厳正な口調で言った。


「なんだよ。テメーもそんな態度か」


「お帰りください」


「おい。イイ加減にしろよ」


「俺たちはハモンドソンさんと懇意の魔導師の紹介状を持ってここにきている。俺たちの苦情ならハモンドソンさんも聞いてくれるだろう」


 大成は相手を入口へ促すジェスチャーをした。

 さきほどのビーチャム以上に揺るぎない態度だ。

 それに対してレッドは、嫌悪感たっぷりに一瞥をくれてから吐き棄てる。


「これ以上は時間の無駄だな。もともとテメーらにもテメーらのやることにも大して興味ねえんだよ。バカが」


 肩をそびやかしてきびすを返したレッドは、なんとも行儀悪くソファーを乗り越えてズカズカと部屋を出ていった。

 気まずい空気だけを残して。

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異世界営業〜大事なのは剣でも魔法でもない。営業力だ! 根上真気 @nemon13

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