犠牲

朝吹

人間は新化する


 古きものは新きものに駆逐されていくものだ。祖母が「チョッキ」と云うのを、「ベスト」と何度、訂正してきたことだろう。

 

 下手に若者と同等に振舞おうとする方がみっともない。若手社員が賑やかに話しているところへ、「おじさんも混ぜてよ。飲み会にも入れてよ」と無理やり割って入っていくような厭らしさがある。同世代感覚のない人間がいくら最新流行の話を繰り広げても、相手は接待モードになって気を遣うだけで、内心はしらけているのだ。


 ところが世の中には目下の者に接待されることが大好きという人種がいて、

「常に新しいもの好きで最新流行じゃないといけないんだぞ」

 と他でもない最新の代表格である若者相手に説教をする。

 だから人が居つかない。すると説教さんは「若い者は根性がない。注意したらすぐすねる」と大声で方々に触れ回って歩くのだ。

 本人が実際に全てを最新で固めているのかといえば全くそうではないのがミソで、実情はまるで伴っていない。ただ、自分は古臭くはない、最先端であると見せかけたい衝動を抑えられないのだろう。

 もし本気で随時アップデートしていくのが生き甲斐だったとしても、躯体は老いていく。それに気が付かず流行を追いかけ、若者に対抗しようとするのはグロテスクだ。

 それよりは、ゆるやかに葉を落としていく老木のほうがいい。

 人は、「古臭い」に向かって新化していくものなのだから。


 ところで先日、十代のユーザーが「本文に出てくるセックスって何ですか? ぼくはまだ十代なので分かりません。教えて下さい」とのたまった。質問された男性作者は大人としての品位を保った節度ある回答を二百文字くらいで出しており、過不足のないその模範解答に感心してしまったが、一方で十代の方は殴ってやろうかとムラムラしてきた。保健の時間は寝てたのか。

 無垢な態度で大人の懐に入っていこうとするのは「可愛い」が通用する十代の特権ではあるが、いやしくもこれから小説で身を立てようとする男一匹がそんな甘ったれた手法をご披露してどうする。

 わたしなら「ggrks」と古臭い呪文をにっこり笑って連打しているところだ。危なかった。中学生の頃から「今どきの若いものは」と腐らせてくる大人にだけはなるまいと誓っていたというのに。

 大人はぐっとこらえて若者を甘やかし、手本を見せてやらないといけないのだ。

 いつかあのくだらねえ十代の小説家志望者くんも、同じ態度で若い子に回答できるといい。


[了]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

犠牲 朝吹 @asabuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説