第27話 クラスメイト

「ちょっと! あんだけやって、まだクズ呼ばわりするんですか!?」


 ラネットの容赦ない一言に、耐えかねたように一人の少女が声を上げた。

 少女の名は、アリア・グランツ。

 燃えるような赤髪をツインテールにまとめた彼女は、グランツ伯爵家の令嬢であり、自他共に認める才媛だった。


 選別試験では、持ち前の炎魔術で魔力の奔流を焼き払い、最後まで残った五人のうちの一人である。


 ラネットは、アリアの言葉に眉一つ動かさず、冷淡な視線を向けた。


「グランツ伯爵令嬢。貴様は、自分がなぜここにいるのか、理解しているのか?」


 ラネットの声が教室に響き渡る。

 アリアは、ラネットの迫力にたじろぎながらも、真っ直ぐに彼女の目を見据えて答えた。


「……分かってます。日没までに、アカデミーにたどり着けなかったから」

「よろしい。では、貴様は、なぜ日没までにたどり着けなかったのかは?」

「それは……でも! それとこれとは──」

「クラス分けテストの際、貴様の相手はフィルフィー・モルテックだったな?」

「え……は、はい」

「国内で三番目の地位を持つ魔術師だ。貴様はどこに勝機を見出し、逃げずに挑んだ? 言い訳をするならば、そこから始めろ。激情に任せて物事を語るな、脳なし」


 ラネットの指摘が刺さったのか、真っ赤に頬を染め、肩を怒りで振るわせながら、アリアは押し黙った。

 しかし、頭をブンブンと横に張ると、すぐにまた口を開く。


「だからそれ!! 私が未熟なのは痛いほど分かってるんです! けど! クズとか脳なしとかって言われると、その……なんかこう、嫌じゃないですか!」

「くだらない意見だ」

「〜〜っ! 失礼を承知でいわ──」

「あ、アリア様……も、もうその辺りで……退学に、されちゃいます」


 アリアが更にまくしたてようとしたところで、その少し後ろに控えていた小柄な桃髪の少女──ユリィ・ローマンが、震える声で止めに入った。


「……っ、そうね。ありがとうございます、ユリィ。少し熱くなってしまったわ。……先生も、申し訳ございませんでした」


 アリアは、自身の最も信頼する従者であるユリィの助言を受けて頭を冷やしたのか、ラネットに向き直ると、深々と頭を下げた。


 そんなアリアの謝罪に対し、ラネットは特に言及することもなく、小さくため息をついた。

 そして、ルクスを含めた残りの合格者たちへと視線を向ける。


「そちらの男子生徒諸君らも、何か異論があるか?」


 ルクスとしては、特に異論は無かったので、腕を組みながら他2人の男子生徒をチラリと見る。


 ルクスの左側に立っていた薄紫髪の少年は、目を細めながら薄い笑みを浮かべている。

 何か言いたげでは、あるが文句があるといった様子でもなければ、口を開く気配もない。


 もう1人の黒髪で大柄な少年は、キョトンとした顔で首を傾げていた。

 どうにも、ラネットの罵倒が理解できていない様子だった。


「異論は無いようです」


 特に発言する様子のない2人に代わって、ルクスが代表して答える。

 ラネットは、ルクスの言葉にそうかと頷くと、相変わらず鋭い視線で生徒たちを見据えながら、再び口を開いた。


「選別を突破し、調子に乗っているかと思ったが……噛みついてきたグランツ伯爵令嬢を含めて、クズの脳なしなりに身の程は理解しているらしいな。上出来だ」


 ラネットは、そこまで言うと、教卓にだらりともたれながら、嘲るあざけような笑みを浮かべた。


「では、自己紹介でもして、互いの顔と名前を覚えろ。ただし無駄話は無しだ。簡潔に、分かりやすく」


 そう言うと、ラネットは顎でアリアを指し示した。


「では、威勢の良かった貴様から始めろ」

「……アリア・グランツ。炎魔術が得意です。目標は、もちろん魔術師の頂点。

 誰にも負けません。あなたも、いずれ超えます」

「次」


 アリアは、ラネットを睨みつけながら、そう言い放った。

 ラネットは、アリアの視線を無視して、次にユリィを指名した。


「……ゆ、ユリィ・レーマンです。アリア様のげぼ……いえ、従者です。得意な魔術は……幻影系です」

「次」


 ラネットに促され、薄紫色の髪をした少年が、ふわりと笑みを浮かべながら口を開く。


「ボクはジーヴァ、家名は秘密。ジーヴァって呼んでくれ。得意な魔術も秘密ってことで、どうぞよろしく」

(こいつ、血の匂いが……それに、気配が妙だ。2人いるのか?)


 ルクスは、ジーヴァの自己紹介を横で聞きながら、眉をひそめた。


 一見すると、女性ウケの良さそうな爽やかな風貌と言動。

 しかし、ルクスは彼に対して、争いの絶えぬ神代で幾度となく嗅いだ血の匂いと、得体の知れない何かを感じ取っていた。

 

(いや……気のせいか?)


「おい、エルフィンストン」

「っ、は、はい!」

「自己紹介だ。早くしろ」


 ラネットに名前を呼ばれ、ルクスは我に返る。


「ルクス・エルフィンストン。得意魔術は模索中だ」

「次、最後」


 ルクスが、簡潔に自己紹介を終えると、ラネットは残りの黒髪の少年へと視線を向けた。


「あー、ワシぁカマワレと申す。

 得手する、魂気術……いやぁ、マジュツは、土じゃぁ、よろしゅうなぁ」


 カマワレと名乗る大柄な少年は、独特のイントネーションでゆっくりと話す。

 異国、ないしは異大陸の出身なのかもしれない。


「以上だ。これで貴様らは、曲がりなりにもDクラスとして、アカデミーの一員となった。

 そこで早速だが、今後の方針を発表する」


 ラネットは、生徒たちの自己紹介が終わると、彼らを見据えながら、ゆっくりと話し始めた。


「方針、というと?」

「そうだな……今月中、でいいか。落としにいくぞ、Cクラスを」

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神代最強の魔術師だけど、1000年後の未来に転生したら最弱だった件 〜魔術が発展しすぎて通用しなかったので、1から鍛え直してもう1度最強を目指します〜 傘重革 @kasaegawa

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