セピア色のそよ風

コウセイ

第1話   セピア色のそよ風

 二月にがつはいり、入院にゅういんしていたちちくなると葬儀そうぎをすませ、色々いろいろ整理せいりをして、クサカベ トシヤは会社かいしゃめることにした。三月末さんがつまつめることを上司じょうしげ、退職届たいしょくとどけをすと理由りゆうかれることもなく受理じゅりされる。

 五十手前ごじゅうてまえ独身男どくしんおとこほか家族かぞくく、四月しがつからは再就職さいしゅいしょくすらなにまっていない。

 そこで、トシヤは一日いちにち大半たいはん図書館としょかんにてごす。五月ごがつになっても図書館としょかんかよ日々ひびつづき、五月ごがつ下旬げじゅんになり。

 そんなあるあさ図書館としょかん三階さんかいのいつもせきすわり、トシヤはほんむ。

 二時間にじかんほどして──



   ガタッ



「(・・・学生がくせいか)」

 ──おなじテーブルづくえ区切くぎられたせきすわ女子高生じょしこうせい

 そのテーブルづくえ四対よんついかいわせのつくえで、たがいにかいにわせのはしはし二人ふたりすわったかたちとなった。

 それから数十分すうじゅっぷん──



   バタン 



「(ん?・・・ひとない?)」

 ──突然とつぜん、ガラスりのドアがまる。

 トシヤがすわつくえは、二階にかい三階さんかいつな階段かいだんよこにあるテーブルづくえ透明とうめいなガラスが横並よこならびで、ひと出入ではいりするのは勿論もちろんのこと、階段かいだんがってひともわかるのだった。

 一瞬いっしゅんだけ──



   ソヨ・・・



 ──不思議ふしぎかぜく。

 すると、トシヤの背後はいごから──



   ヒョイ



ひさしぶり!」 

 ──かおのぞかせるように微笑ほほえ少女しょうじょ

きみは・・・」

 むかしなつかしくおも制服姿せいふくすがた少女しょうじょに、トシヤはすこ戸惑とまどう。

「びっくりした?」

「・・・そりゃあ、その姿すがたうとはね」

 彼女かのじょは、タカヤマ サユリ。トシヤの高校時代こうこうじだいのクラスメイト。しかも当時とうじわらぬ姿すがたで。

本当ほんとうかなあ・・・そうえないんだけど」

素気無そっけな反応はんのうに、サユリはおもう。

「もしかして・・・」

 いかけ、トシヤはくちざす。

「ふふ・・・わかってるとおもうけど、わたし・・・んじゃった」

「そうなんだ、病気びょうき事故じこ?それとも・・・」

 あといをにごした。

安心あんしんして・・・ってへんだけど病気びょうきでね。四日前よっかまえに、今日きょう葬式そうしき

「これって・・・ぼくだけえてる?」



   フイッ



 おもわずおなじテーブルづくえすわ女子高生じょしこうせいを、トシヤはた。

「こっちてる?えてるのか・・・」

 かたまったままで──

「・・・」



   ジィィ・・・



 ──女子高生じょしこうせい二人ふたりている様子ようす

えているとおもうよ」

 と、サユリ。

「いいのか?」

 と、トシヤ。

「しょうがないよ、こっちだけえて・・・こうにはえないようにって、そんな器用きようなことできないよ」

「それで・・・どうしてここに?」

「それがさ、おっとむすめたちはわたしのことづかないんだよね。それで最後さいごいたいなってかんがえてたら・・・いつのにか図書館としょかんた」

ぼくに?」

 サユリがはにかんだみをせると──



   ニコリ



「・・・じつ初恋はつこいだったんだ」

「そうなの!?」

 トシヤはおどろきのこえげる。

なに?そんなにおどろく?」

おどろくよ、もしかしたらっておもうよ」

「どういうこと?」

「そのうことになって・・・結婚けっこんまでいったかなとおもってさ」

結婚けっこん・・・か、けど初恋はつこいってみのらないってうよね」

むかしはね、最近さいきんは・・・よく小中学生しょうちゅうがくせいのときにきだったひと再開さいかいして結婚けっこんしたってくことあるよ」

「へえー・・・」

「まあ、よく初恋はつこいみのらないのは・・・告白こくはくせずにむねおくめたままにするからだとおもうよ」

「ああ・・・そうかもね」

 トシヤのげんに、サユリが納得なっとくする。



   ・・・!



「そろそろかなくちゃ」

 最後さいごときがきたことを、サユリはげた。

「・・・時間じかん?」

「まあ・・・そんなこと」

最後さいごに・・・きみ現在げんざい姿すがたてみたいな」

「えーたい!?」

 トシヤのねがいに、サユリはいやがる。

むかし姿すがたでもなつかしくおもえるけど、現在げんざい姿すがただと・・・もっとどうえばいいのかむずかしいけど青春せいしゅんいちページっておもえるんだ」

「そう・・・だね、わかった」



   フッ



「どう?やっぱり・・・けてえるでしょ」

 いま姿すがたに、サユリはおも時間じかんながれを。

充分じゅうぶんに・・・年相応としそうおううつくしさだよ」

「なあに!?からかわないで!」

 サユリがれる。

「からかってなんかいないよ」

「でもありがと・・・もうくね」

ぼくも・・・えてよかったよ」



   フッ



 制服姿せいふくすがたもどり──

「じゃあ・・・また」

「ああ・・・また」



   スタ スタ



 ──はいってたドアをけ──



   タンタンタン・・・



 ──階段かいだんりると少女しょうじょ姿すがたうすらいでゆく。



   バタン  

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   セピア色のそよ風 コウセイ @potesizu

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