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 教室のドアが開く音に振り返る女。


誰が来たのだろうと軽い気持ちでドアの方を見ると、学校では見かけないはずの人物がどこか気まずそうな顔をして立っていた。


 「......真面目ムーブですか?」


ドアに近づいてから、彼の登校を咎めるように女は男を見つめる。


「もう休む理由がなくなったもので」


やけに冷たく言い放たれたその言葉に思考を巡らせる女。


 男は痺れを切らしたように「もう会う人が居なくなった」と呟いてから自分の席に

向かった。


女はやっと理解して、必死に言葉を探してから「髪、せっかく染めたのに。切っちゃったんだ」と出来るだけ当たり障りのない言葉を掛けた。


 「ああ」


襟足のあった場所をごつごつとした指で撫でる男。


「一生懸命背伸びしてた可愛い男が、元の身長を受け入れただけだよ」


「うえ、気持ち悪い。」


毒を吐きながらも女の口角は愛らしくつり上がっていた。


 見慣れたその黒髪を見つめる。


日本人らしい漆黒に染まったその髪色は、安っぽいカラーシャンプーで染めた青色よ

りもよっぽど綺麗に輝いていた。











 「......背伸びの漢字も、書けないくせにね」

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せのび 有くつろ @akutsuro

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