第4話
「またのご利用を、よろしくお願いします。」
駅員が宏樹の方に頭を下げてこう言った。
どうやら、あのおばあさんがぐちぐた行ったのかそれともとても権力のある人だったのか、わからないが宏樹の切符は高崎川の駅員に受け取られて、過剰な分ののり賃210円が宏樹の手に帰ってきた。
「それじゃぁ、いくよ!そこのあんちゃん、私は長いことバイクに乗ってきたけど、少し寄るところがあるからね、今からいっても八時には間に合わないかもしれないよ!」
「あぁ、はい、わかりました!!」
駅をとたとたと走って駐輪場の奥へと向かうと、そこにはスポークが5本くらい錆びているスーパーカブがあって、座席は雨の影響か涙を流したかのようにポツリポツリと白くなっていた。
「それ被っときな!」
電源をつけようとキーをガチャガチャ回しているおばあさんが宏樹に渡したのは藍色に近い色をしたホコリだらけのヘルメットで、金縁のラベルの年代を見てみると昭和42年と宏樹の父親のより年上の年代物であった。
ヘルメットの安全性にはいささか疑問をもったが、被ったときの頭にのっかかってくるその重さを宏樹は信じることにした。
おばあさんがアクセルを握ってスーパーカブは足を動かし始める。規定速度の1.2倍。警察がギリギリ気がつく軽犯罪法違反なのだが、かの大企業方向の反対車線には警察達は興味を示さないのか信号なしで、ひとつのお店に向かっていった。
「さぁ、いったんここで休憩だよ。おにぎり作ってくるから、あんたは店のなかの駄菓子、合計150円になるように自由にもっていきな!」
おばあさんが鍵を突っ込んだシャッターには古い赤いペンキで
「なみだ屋」と書かれていて、水曜日以外の営業時間がそのしたに一回り小さい文字で手書きで書かれていた
店先のコンクリートは店の雨宿りスペースのおかげて雨の侵食による変色から免れていたが、その屋根が雷かなんかで焼きただれてしまって穴があいていたので、その白さもいつか回りの黒に染め上げられてしまうのかもしれない。
ガラ、グァラ、ガララとさびついたシャッターが上がったその先には、今の東京にするみつくJKが逆にドン引くほどのレトロががそこにあった。
小学一年生が手にとれるくらいの高さには10円菓子のうまい棒やキャンディ。月百円のおこづかいの子供達がかうお菓子達が、人の手あかでくろずんでコクが増えた木箱の中に、
少し奥には小学生中学年の子供のための三十円のチョコレートやフェラムネがこれも持た同じように入れられている。
壁棚にはいまの子供達は見向きもしないであろうブリキのロボットやねじまき車が時代もののほこりと錆びをかぶっていて、その一段上にオレンジ色のフタのプラスチックー容器達の中には棒に刺さったスルメイカがきなこぼうがそれぞれ入れられていたが、いつの消味期限なのかはケースの表記は完全に当にならず、 そのままどこかの遺跡にほうっておいても気付かれないくらいにはカピカピにかんそうしていた。
宏樹は部員十二人のために見たことのある同じ袋のキャンディ一ダースと自分用のグッピーラムネを会計であろう奥畳におく。
お代は五百円の内に税込みでいいからねというのを思い出したので、おかしの横にすわって上をみる。
天井にはサッカーボールやカラー ボールがあみにつつまれていて吊るされていた、飛行機のおもちゃのもけいがワイ ヤーでつるされて、いまにも転びそうな円運動をゆっくりと行っていたりした。
そうこうしているうちに宏樹は自分の横にある福引きのガラガラに気がついた。
これも同様に、昭和頃のうるしぬりのガラガラだったが景品の出口は大きく、そこから何が出てくるのかの口を上にしてみてみたが、何が入っているのかはブラックボックスよくわからなかった。
残念に思っていると、
「ほら、これ食べな、お前さん何もたべてないでしょ」と大きなおきぎり2個とたくあん3枚,、そしておみそしるを陶器のお冊とお茶胞に入れてもってきてくれた。
「いただきます」
手を合 わせてごはんを食べ始める。本当においしかった。
父と母は共に働いていて生樹が 毎日食べているのは冷凍蔵で箱降りになったのを溶かしたトーストと大事なところだけをまとめたものをお湯にとかしたインスタントスープ。
機械的な朝食で心からあっためてくれる朝食はいままでない。
そんな中のみそ汁は場所が駄菓子屋といえどもとてもおいしいにちがいなかった。
弟の好き嫌いでなくなってしまった手作りのすっぱいおにぎりの梅干しやちょこんと切られたたくあんも体の糧にきちんてなって体をあっためてくれる。そう感触が確かにある。
「おばあさんも食べなくて大丈夫なんで すか?」宏樹がおばあさんに聞くと、
「今うん大丈夫だよ。私、朝ごはんを食べなくても生きていけるからね。それより、若いのはちゃんと食べなきゃ元気は出てこないよ。」
そういってにこり と笑った。
「ごちそうさま。おいしかったよ」両手をあわせてそういうと、「そりゃあ、うれしいよ。ありがとさんね。ありがと、それじゃあいくよとたっこりと笑った。」
この人の笑顔なんか女神みたいでいいな。
宏樹はなぜかそう思った。
「おっと、忘れてた。」そういって、おばあさんはガラガラを宏樹に向けた。
あんたは一応お客さんだからね。これを回してもらわないと。
「いいや、大丈夫ですよ。会場まで送ってくれるんだしなにより、朝ごはんも、」
「いや、そういうわけにはいかないの。あんたは私のお客さんだからね。お客さんにはこれを引いてもらうルールになってるの。」
「これってなかに何が入ってるんです?」
宏樹が聞くと、
「ああ、これね。ここのなかにはおばちゃん特製のなみだ屋名物、涙のドロップスが入っているよ。私のなみだの結晶だからね。他のお菓子と比べて美味しくないかもしれないけど、絶対なみだちょちょぎれるからね。それは約束しとくよ。」
「わ、わかりました。それじゃあ、回しますね。」
カラカラカラ。油がきちんと刺されているのか、昭和レトロのそのガラガラは軽やかに回り、中でぶつかり合ったりしたあと、ポロンと赤いあめ玉がステンレスの受け口にころがった。
真っ赤、本当に単純な赤だが純情で、透き通ってあめ玉をとおしてそのさきがはっきりみえるほどきれいだ。江戸時代のガラス職人が子供のために作ったビー玉みたいともいってもいい。
「おめでとう。あんたさんは赤。情熱の紅だよ。いろいろと、報われるよ。味が変わらないうちにさっさとお食べ。」
なめるとはじめはしょっぱくすこし水っぽい。だけど、どんどん口のなかが甘くなって、幸せに、そして、心と体があつくなってくる。
生姜でも入っているのだろうか。
とにかく、朝の起こったことはべつになんでもない小さなことだ。きっとそうに違いない。
とりあえず、会場に向かわないと。
「ほれじゃあ、運転ほろしくお願いしわす。」あめをなめながらしゃべった宏樹だったが、
「おっけー、それじゃあ、いこうか。しっかりつかまってよ!」
おばあさんも、なぜか元気をもらったらしく、すごいのりにのようだ。
Tears Drops @Ai-Ai_ser
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