楽しい楽しい、人生という名前!

米太郎

ララ・ライフ

 屋上で一人。

 六月だというのに、まだ梅雨にも入っていない空。まるで私みたいだ。



 場違いなのは、 わかっていたんだ。

 季節を考えない熱い日差しと一緒。私は一人で熱くなっていたんだ。

 文化祭の出し物で、ライブをやろうって、私から言い出した。一生に一度の思い出じゃん。って。

 最初の方は、みんなも乗り気になって、練習をしてた。その時は、すごく青春を感じていた。

 だけど、段々と私だけが一人で突っ走っていった。



 なんで、リズムが合わないのよ。

 みんな遅れてるよ。

 ずれてる! ずれてる!

 そこ、間違ってる!

 なんでもっと上手くできないの!

 信じられない!

 やる気ないの!?



 気付けば、バンドメンバーは私一人だけになっていた。



 私は、ただ、みんなと楽しい思い出が作りたかっただけなのにな。

 精一杯の良いものを作れば、そこに向かってみんなで一生懸命頑張れば、忘れられない一生の思い出になるって。


 雲が出てきて、日差しを遮った。

 なんだか涼しくて。熱い日差しがあるときよりも過ごしやすく感じる。

 やっぱり、熱いっていうのは、みんなにとって邪魔でしか無いのかもしれない。私も雲に隠れてしまえれば。熱い気持ちなんて、心の中に隠していればよかった。そしたら、みんなで楽しくできたかもしれないのに。



 ――ジャジャーン。



 ……ギターの音だ? 誰だろう?

 それにしても、なんだか下手……。


 ……あぁ、そう思っちゃうのが、私の悪い所か……。

 上手くなろうとして、屋上で練習しているんだよね。



「熱いやつは、放って置けー!近づきすぎると火傷するぞー!」


 え一、何だろう……。変な歌……。

 こっちは、屋上で感傷にふけっているっていうのに。邪魔だなぁ。



「冷めてるやつも、放って置けー! ずっといると熱を吸い取られるぞー!」


 歌詞も良くわからないオリジナルソング。歌も下手だし。これを歌ってる人も、文化祭での出し物の練習でもしているのかな?

 熱いやつも、冷めてるやつも放って置いたら、一人になっちゃうじゃん……。



「一緒にいてくれれば、俺がお前らを熱くしてやるぜー」



 ……本当に、誰よこんな歌うたってるの。邪魔だし。何よ熱くするって。

 こんな下手な歌で熱くなれるわけないでしょ。



「ちょっと、うるさいし、下手だし、何やってるのよ!」


「は? 下手だから練習してんだろうが。頭悪いんか、お前は」


 階段の裏側にいたのは、頭にタオルを巻いた男子。上履きの色からして、三年生。私の二個も上か。

 上級生なのに、この腕前……?


「ごめんなさい。けどもしかして、その腕前で、文化祭で出し物するとかですか?」


「は? そうだよ、何か悪いのか? これでも毎日練習して、毎年文化祭で疲労してるんだよ!」



 下手なのに?

 練習してても下手なのに?


「なんだよ、下手だって言いたいんだろ? けど歌って、上手い下手じゃねーだろ」


 いや、さすがに下手過ぎるでしょって、反論をしようと思ったら、雲の隙間から熱い日差しが降ってきた。

 ちょっと眩しくって言い返せないでいると、先輩は更に言ってくる。


「歌って、どれくらい心に響いたか、どれくらい芯を熱くできたかってことだろ?」



 熱い日差しは私にだけ降り注ぎ、私の身体を温め始めた。


「音楽って、音を楽しむってことだろ? それが分かってねーなら、小学生の漢字の勉強からしてこいよ」



 こんな下手な人から説教されるなんて、うざったいなって思うけど。私は、熱いまなざしを向けてしまっていたんだと思う。



「……先輩って、ロックって名前でもついてそうな口ぶりですね」


「そうじゃねーけど。俺の名前は、人生って書いて、ひとき。かっけー名前だろ」



「そうなんですね。私の名前は、楽しいを繰り返すって書いて、楽々らら。楽しいっていう字は、ちゃんと小学生で習いましたよ」



 雲は晴れて、熱い日差しは人生ひときにもあたるようになった。


「私、バンドメンバーに脱退されちゃったんです。良ければ人生さんのバンドに入れてください」


 熱いまなざしを下げて、誠意を込めてお願いをする。こんな熱い人、もう巡り合えないかもしれないと思ったから。

 熱い気持ちには、性別とか、年齢とか関係ないかもしれない。私が心の底から楽しめるっていうのは、こういう人と音楽をすることかもしれない。



「は? 別に良いけどさ。俺、バンド組んでないんだけど、ずっと一人だよ」


「えっ……? ずっと一人なんですか? バカダサいじゃないですか」



「なんだそれ、一口で二個も悪口いうんじゃねーよ」


「ははは。悪口じゃないですよ。一人でも頑張ってるのって、バカでダサいですけど、カッコいいです」



「よくわかんねーな。けど、なんでお前なんかと組まなきゃいけないんだよ」


「ふふ。やってみたらわかりますよ。ユニット名は、『楽々らら人生ひとき』」



「なんで、俺が後に言われるんだよ」


「言い出しっぺが先です。あと、人生ひときって、ダサいから変えましょ」



「お前、人の名前をダサいって!」




『ララ・人生ライフ


 私と先輩が見つけた、熱い青春の名前。

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楽しい楽しい、人生という名前! 米太郎 @tahoshi

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