第20話 ずっと一緒にいられますように

「うまっ!」

「……おいしい」

「さすが幸さんですね」

「何度食べてもおいしーね!」


 食卓を囲むのは、天神兄弟。

 あとはフウと、幸兄と、ボク!


 この七人で囲む夕飯はやっぱりおいしいなあ……。


「このカレー、いくらでも食べれるっ!」

「……それは無理だろ」


 ぼそっと突っ込むのは雨海くん。


 一昨日……タコパをした日から、なんか晴玲くんと雨海くん仲いいんだよねえ……。

 夜、思わず雨海くんを追いかけて外に出たけど、あそこにいちゃいけない気がして戻ってきた。


 何があったのかはわからないけど、まあ仲良くなっているならいいんじゃない?

 パーティー計画、大成功だねっ!


「カレー、懐かしいね」

「うん、わたしが人間界こっちに来て、天音ちゃんにお世話になるって決まった日の夕飯と同じだよね」


 ねえ、みんな気づいてる?


 約一か月前に囲んだ食卓より、ずっとにぎやかで楽しい食卓になってるの、気づいてる?


「……こういうの、いいな」


 雨海くんが、ぽつりとつぶやく。

 マスクの下の顔は見えないけど、ほんのり頬が赤く染まっているように見える。


「うん。そうだな……。って、雨海が発言するのめずらしー!」

「おまっ、バカッ」


 からかってくる晴玲くんの頭に、雨海くんがげんこつをおさめる。


「痛っ……! 兄に向かってヨーシャねーなっ!」

「……知らね」


 頭を押さえたままの晴玲くんが、突然「あー!」と叫んだ。

 ど、どうしたっ!?


「どーした?」


 ボクの心の声を代弁してくれたのは雪良くん。


「ふはっ。雨海が笑ってるっ!」

「……うっせ」

「ほ、ホントだっ……」


 わ、笑ってる!? ボクは雨海くんの笑顔を見るのは初めてなので気になる。マスクを鼻まで上げて、顔を隠す雨海くんに、みんなが詰め寄った。


「えっ? 見たいっ!」

「雨海おにーちゃんが笑ってるの見たーい!」


 フウと雪良くんが真っ先に声をあげる。

 わちゃわちゃとする食卓に、幸兄がパンパンと手をたたく。


「はーい、一回自分の席戻ろうか。雨海くんも困るよねー?」

「……ありがとうございます」


 最初のころさ、雨海くんだけ笑顔を見せてくれなくて、どうしたら笑顔になってくれるかなーってめっちゃ考えたんだよ。

 でも、こうして今、みんなの笑顔が見れている。


 これってすごいことだと思わない?


 この一瞬は、きっと忘れない思い出タカラモノになる。


「ずっと、一緒にいられますように」


「えっ?」

「ううん、なんでもない。早く食べちゃわないと冷めるよー!」


 笑い溢れる夕飯だった。


 ―――――


「い、な……い」


 次の日の朝になった。

 ボクは目覚ましの音で目を覚まし、ベッドから起きたところだった。


 いつもはフウが横で寝ているはずなのに、いない。


 ハッとして、他の部屋も確認する。

 ノックをするが、返事はない。

 意を決して開けると、誰もいなかった。


「幸兄っ!」

「おはよー。どうしたー?」


 フライパン片手に返事をしてくれる幸兄。

 ボクは聞きたいことをたずねる。


「フウちゃんたち? 帰っていったんじゃないかなあ……。でもフウちゃんたちなら帰る前に一言あるような気がしないでもないけど」

「そうだよね……」


 少し不安になりながらも、ボクは学校の準備を始めた。


 ―――――


「おはよー」

「また雨海くんお休みなの~?」

「そ、そうだね……」

「ちょっと心配だなあ……お見舞い行ってもいい?」

「え、えっ、たぶん雨海くん困ると思うな、ハハハ……」

「そうかー。じゃあ仕方ない。あたしたちが心配してたよって伝えておいてくれない?」

「お、オッケー」


 クラスメイトに相変わらずいろいろ言われてるけど(決して悪口は言われてない……と思う)、これももう慣れたなあ……。


「フウちゃんもお休みっ!?」

「おいしいスイーツ見つけたのに~」

「う、うん。明日ももしかしたらお休みかも……」


 ええーっと残念そうにため息をつく二人だけど……ボクもため息つきたいよ……。

 はあ……。


 ―――――


「ただいまー……」

「おかえりー!」


 そっか、今日幸兄仕事お休みだっけ。

 平日は返事が返ってこないことが当たり前だったから、返事が返ってきたことに嬉しく感じる。


 ん? でも幸兄の声じゃない気が……。


「……っ!?!?」

「フフフーびっくりした? ドッキリ大成功だねっ!」


 ……フ、フウだったっ……。


「心配かけたね。天王さまから呼び出されて、次こそ失ったモノを取り戻せたから戻ってこいって言われて」

「え、取り戻したモノってなに……?」


 くすっと笑って、フウが口を開く。


「これこそ、いちばん大事なモノだよっ。それはね、」


 ニコッと笑って、一言。


「みんなの笑顔っ!」


 昨日の夕飯のときを思い出す。

 みんな、笑ってた。

 ——心から。


 笑顔が、「失ったモノ」それで……「一番大事なモノ」

 でも、取り戻したら下にいる必要はないんじゃないの……?


「もうっ、天音ちゃん忘れちゃったのっ? もー!」


 ええっ、そんなこと言われても全然心当たりないんだけど……。


「天音ちゃんと一緒にいたいからって言ったじゃんっ!」


 天王さまのオッケーももらったよ! と言って笑うフウに、ボクは言葉が出てこない。


「みんなも、まだここで過ごしたいって。できるなら、ここで――」

「うん、うん。みんな待ってる。ボクも待ってたよ」

「ありがと。……あ」


 ドタバタと音を立てて玄関に行くフウを、ボクはよくわからないまま追いかける。


「「「「ただいま」」」」


 みんなだ。みんなが帰ってきてくれた。


「おかえりっ」


 ツーっと涙が頬を伝う中、泣き笑いのような表情で、大好きなみんなに向かってボクは言った。

 秋に色づく日、天気から始まった物語が、今スタートした。

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天神さまがやってきました⁉ つきレモン @tsuki_lemon

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