【芸能界幹部会議】掌編小説

統失2級

1話完結

「我々、古川興業の所属タレントであった宮田真が先日、古川興業を批判する記者会見を開きましたので、我々は宮田との契約を解除致しました。そして、向こう30年に渡って宮田をテレビ業界から干し、更に政府からの助成金である100億円を元手に、手下のタレントやネット工作員を使い宮田の悪評を日本中に撒き散らして行きたいと思っております。ご出席の皆さま方のご賛同を宜しくお願い致します」古川興業の専務を務める眼鏡を掛けた小柄な老齢男性が発言すると、他の出席者たちは異口同音に「異議なし」と返答した。専務は「ありがとうございます」と謝意を表明する。続いて、司会の短髪の若い男性が「はい、1つの議案が可決されました。それでは次に発言されたい方はおられますか?」とスタンディングテーブルの奥に立ち、会議テーブルとは少し離れた場所から、マイク越しに問い掛ける。すると、会議テーブルを囲んで座っている7人の出席者の内の1人である肥満気味の中年男性が口を開いた。「それでは、私にも発言させて頂きたい。我々、夏風プロモーションの所属タレントである稲咲茉美が、我が社の重要なスポンサーであるとある男性にスカトロプレイを要請されたところ、その男性に煙草とライターを投げ付けながら、罵詈雑言を浴びせてホテルの一室から逃走するという暴挙を働きました。従って、我々は稲咲との契約を解除致しました。稲咲は永遠に芸能界から追放し、傘下のメディアを使って稲咲の悪口を日本中に流布したいと考えております。ご出席の皆さま、どうかご賛同願います」他の6人の出席者たちは、ここでも皆、「異議なし」と返答した。会議は滞る事なくスムーズに進行する。続いて、前髪を垂らした美形の青年が発言する。「我々、スカイパーク事務所の所属タレントであった笠木里真が、私の伯父でもある我が社の社長の大恩を踏み躙り独立してしまいました。この一連の動きの背景には彼女の父親の思惑があった模様です。その父親の言い分と致しましては、『娘はグラビアの仕事で、性器の形が浮き出る様に股間に水着を食い込ませた写真を何枚も撮られ世間に公表されて来た。もう、あなた方の様な破廉恥事務所に娘を預ける事は出来ない』というものでした。そこで、我々は懇意にしている暴力団の方々にご尽力頂き、父親を黙らせる事に成功致しました。そして、近い内に笠木の新事務所は閉鎖させ、彼女には芸能界から永遠に退場して貰う計画を立てております。更に今後は懇意にしているメディアの皆さんが『笠木里真の父親は金に汚い男』とのネガティブキャンペーンを繰り広げる事にもなっております。ご出席の皆さま方、どうかこの計画へのご賛同を宜しくお願い致します」40畳ほどの会議室には今度もまた「異議なし」という6人の声が響いた。次に発言したのは男装の細身の中年女性だった。「私共の秋山プロダクションに過去に所属していた志木田明哉というタレントが、ラジオやYouTube等でアメリカ政府と日本政府への批判を繰り広げております。我々は再三に渡り志木田に対して、その類の発言を取り止めるよう要請して参りましたが、志木田には改める意志が無い模様です。そこで、志木田にはハニートラップを仕掛ける事に致しました。ハニートラップを仕掛ける16歳の少女も既に用意しております。これは日本政府からの命令でも御座いますので、どうかご出席の皆さま方もご賛同願いますよう宜しくお願い致します」すると、他の6人の出席者たちの口からはこの日、4度目となる「異議なし」という言葉が発せられる事となるのでした。


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