ララ・ライフ
青切
ララ・ライフ
私の最初の男は、暇があると、変な節をつけて、「ララ・ライフ」と口ずさんだ。
私を抱いたあと、コンビニ帰りの散歩道、二人きりの映画館……。
初めてのとき、男が紙タバコを吸いながら、「ララ・ライフ」と口ずさんだ。男に私が、「その歌、どういう意味?」とたずねると、彼は笑いながら、「たいした意味なんてないんじゃない? 日本語にすると、嗚呼、人生かな。昔の彼女の口癖でね。いつの間にか、移ってしまった」と言った。「その人、いまはどうしているの?」と聞いたところ、「さあ。音信不通。もう、全然、興味がないから、顔もよくおぼえていないよ」と冷たい声で男が答えた。でも、私は強い嫉妬を、その女におぼえた。
最初の男が自殺したあと、私が「彼女」のひとりに過ぎないことを知った。「本命」ですらなかった。
「彼女」の中には、友人もいたので、一緒に男の葬儀へ出たとき、「変な歌をよく唄っていたよね」と何気なく口にしたところ、彼女は「そんな歌、聞いたことないわよ」と応じてきた。私はふしぎに思い、変な女と思われるのを承知で、「本命」の人にもたずねてみたが、知らないとのことだった。
それから私は、ふらふらと、こちらの男、あちらの男と、男たちの間をさまよった。
私のからだはとても抱き心地がよいらしく、男が切れることはなかった。男たちは私を手放さなかった。
私はほとんど何をされても拒まなかった。ただ、ひとつだけ、私が「ララ・ライフ」と唄うのを嫌がる男とは縁を切った。
「ララ・ライフ」がどういう意味かと問われるたびに、私は、最初の男が唄っていた歌であることを隠さずに言った。たいていの男は苦い顔をした。
「ララ・ライフ」という歌は、私のからだを通り過ぎるときの通行証のようなものだった。
私のからだを巡って、男たちはよくけんかをした。私は「ララ・ライフ」と唄いながら、その様子をぼんやりとながめ、勝ったほうの男に抱かれた。そんなことが何回かあった。
上の記憶はいわゆる走馬灯というやつだろう。
私はいま、真夜中の道で倒れ込んでおり、お腹、おそらく子宮のあたりに包丁が刺さっている。
復縁を迫ってきた、かつての男がやったのだった。逃げ去った男は、昔付き合っていたと言っていたが、彼の顔に見覚えはなかった。縁が切れて忘れてしまったのだろう。そもそも、男の顔なんて、たいてい、どれもおんなじだ。おんなじなのだ。
下腹部に手を置くと、血が溢れ出ていた。
嗚呼、死んだあと、私を抱いた男のうちのだれかが、「ララ・ライフ」と弔ってくれればよいのだけれど……。
私は「ララ・ライフ」と口ずさみながら、最初の男の顔を思い出そうとした……。
ララ・ライフ 青切 @aogiri
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