筆おぢ

人を拒絶し自己世界に閉じこもった人間の初恋の物語。

幼少期のトラウマから発声に問題を抱え孤独に暮らす主人公。

彼はある出会いに心揺れる。カルチャースクールの勧誘。書道の実演。スクリーンに映った筆先が彼の心を捉えてしまう。

墨のわずかな表面張力に筆先を残しながら、軸をぶらさずに滑らかに進むその動きに彼はこれまでになく心惹かれたのだった。

男は実演が終わると数十年ぶりに自ら他人に意志を示した。
”私は声を出せません。ですがあなたの下で書道を学びたいです”
レシートの裏に書いた拙いメモを受け取った【意中の筆】の持ち主は快く彼を受け入れた。