あなたはひとと

道幸綾真

あなたはひとと

深海の香りを抱いて泣かずとも濡れている目に口づけたかった


深海にいだかれる日を夢に見て水を恐れるあなたの目のふち


凪ぎの日にまた抱きしめあう約束を刻み懐中時計が歌う


うつくしいあなたの歌はただ胸に鼓膜をつけているからなのか


病める日は歌が欲しいと泣いている窓から遠い象牙のピアノ


本当の雨を知った日 やさしさはあなただったのこんなに冷たい


釣り鐘をとまり木とした鳩が飛び塔は崩れる慟哭が鳴る


ひどいひと波にさらしていた足でどこに行ったのうろこも持たず


箱庭を去る者たちよみずどりの歌を返せと引いてゆく海


坂道をのぼった波が学び舎をさらって気づくあなたはひとと


深海に帰してほしいもうわたしどこに行ってもあなたが住んでる


野鳥さえ足枷をつけ飛ぶ町は燃えているかと叫びもしない


あなたほどやさしい音をつくれないあなたがいない陸にいるから


鳥は落ちあなたの海にいだかれる なにから逃れたかったのだろう


もうわたしあなたのいない深海で生きてゆけない帰りたくない


深海に行きたくないと耳が言うあなたの歌が聞こえなくなる


ともに付く足が濡れてく足だけが濡れていたくて涙を拭う


カリヨンをつくって果たす約束と太陽鳥への誓いやつぐない


歌こそがひとをつくると言うのならわたしはずっとひとだったのね


名を呼んでむせぶことこそが歌ならば僕ははじめてひとになるのか

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あなたはひとと 道幸綾真 @kouama

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