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「風邪、長引かなくてよかった。もし何日も瀬戸さんに会えないなんてことになったら、つまらないだけじゃなくて、寂しくなっちゃうから」


屈託なく笑って、なんの恥ずかしげもなくそんなことを言えてしまうところは、さすが水無月くんだ。

そのセリフと完璧にイケメンな笑顔に赤面し、けれど水無月くんの残念な部分を垣間見るたびに悲しげにため息をつく女子達の姿が目に浮かぶ。

私はもう、その残念なイケメンっぷりには慣れてしまった。


「やっぱり瀬戸さんは、僕のベストパートナーだね。初めて会った時から、何となくそんな気がしていたんだ!」


ベストフレンドではなくパートナー。

それは、水無月くんにとっての私が、友達以上の存在ということなのだろうか。

友達以上……友達の上と言ったらなんだ、親友か?

水無月くんと親友……その響きは、何だか怖い。ろくなことがなさそうな気しかしない。


「今日の放課後は何をしようか、瀬戸さん」


私が密かに震えあがっていることなんて、知る由もない水無月くん。

嬉しそうな、楽しそうな、なんの曇りもないその笑顔は、やはりただのイケメンにしか見えない。

中身は大変残念なことこの上ないけれど。

鳴り響いたチャイムに、水無月くんが「あっ」と声をあげて立ち上がると、手を伸ばして机の上に置かれたコーヒー牛乳を一つだけ掴み上げる。


「それじゃあ瀬戸さん、今日の放課後はコーヒー牛乳をお供に、今後の活動方針について話し合おうね。約束したからね、忘れないでよ!」


活動方針って……部活動か。

軽やかに手を挙げて去っていく水無月くんを見送り、机の上に視線を移す。

一本だけ、置いていかれたコーヒー牛乳。

伸ばした手がパックに触れる直前に、ふと桃太郎ルールのことが頭をよぎったが、もう今更なので一瞬の躊躇もすぐに消し去ってパックを掴んだ。

みんなは何かを激しく勘違いしているが、私と水無月くんは別に特別な関係ではない。

ただのクラスメイトよりは仲が良くて、友達や親友というくくりだと何だかちょっぴり怖い、そんな関係だ。

勉強が出来て、スポーツも万能で、顔も性格も最高な水無月くんは、変わり者という欠点を持った大変残念なイケメン。

そして私の生活には、そんな残念な水無月くんが欠かせなかったりする。

これはまあ、本人には内緒だけれど。

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瀬戸さんと水無月くん まひるの @mahiru-no

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