forget-me-not

丸瀬まる

forget-me-not

逃げ出せばひとりになって静けさに殴られている平日の海


どこまでも重い砂浜 生きてゆくために踏まれる必要がある


靴下を脱げば裸足になるようなわかりやすさで恋をしていた


まだすこし夏になれないもどかしさで勿忘草の色をする空


嫌われることができずにサイダーは炭酸だからサイダーだった


引力で出会ったり別れたりするくせに今さら願ったりする


スケジュールすべて破けば手に入る空白だってようやく気づく


泳げない魚が陸をえらぶならわたしが海をえらんでもいい


自分では光れないから日の当たるときを待つ不確かな生き物


シーグラス ここに来るまで飲み干した挫折の数を聞かせてほしい


打ち寄せる波はわずかに泡立って心のように模様をつくる


再生のボタンを押せばいつだって青春のメロディーは死なない


この海に荒れる日があることすらもきみは希望と呼ぶんだろうね


掬うこと、それはおそらく救うこと 水を空へと近づけながら


かもめにもヨットにもなれないままで風の物真似ばかりしている


閉じ込めた宇宙のようにうつくしく毒の有無などもうかまわない


透明なものだけ見える世界ならだれも傷つかなくてよかった


涙ってきっと純度を下げてしまう、海に落ちないよう見る夕日


遠くなる水平線にあこがれて今にも崩れそうな手を伸ばす


forget-me-not 沈んだその先に咲く花があることを知りたい

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